連載コラム

2017/2/13FREE

近隣窮乏化政策

ジャイアンの貿易政策

目からウロコの経済用語「一語千金」

玉手義朗

 マンガ「ドラえもん」に登場するジャイアンは、のび太たち同級生にとって付き合いにくい相手だ。体も態度も大きく、何事も力で解決しようとするジャイアンは、「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」と言い放つ自己中心的な性格で、学校内の平和を乱す存在となっている。
「近隣窮乏化政策」は、世界経済におけるジャイアンのようなやり方だ。自国の経済を活性化させるために、貿易相手国に失業や不景気などの負担を押しつけようとするのが近隣窮乏化政策。貿易は国と国とのお付き合いであり、得意な分野の商品を売買し合うことで、共に経済発展を目指す自由貿易が望ましい姿だ。世界経済という学校の中で、国という同級生たちが自由に過ごすことが理想なのだが、現実にはジャイアンが現れて、他の国から利益をもぎ取る近隣窮乏化政策が実行されることがあるのだ。
 具体的な近隣窮乏化政策の一つが通貨安政策だ。自国通貨が値下がりすると、輸出価格が下落して輸出が増加するため、景気が拡大し失業も減ることが期待できる。そこで政府が外国為替市場に介入するなどして、自国通貨の切り下げを図るのだ。また、関税引き上げが実行されたり、国内産業育成のための補助金が出されたりすることで、国内産業を守る場合もある。これらの近隣窮乏化政策は、貿易相手国の輸出を減らし、景気と雇用に悪影響を与えるため、「失業の輸出」とも呼ばれている。
 近隣窮乏化政策は、保護貿易政策をより攻撃的にしたもので、世界経済全体に深刻なダメージを与える。横暴なジャイアンに、のび太たちが対抗しようとするように、貿易相手国も対抗措置に打って出るため、お互いに自国通貨を安くしようとする「通貨安競争」や、「関税引き上げ競争」へと発展する。これによって全世界の貿易が縮小して経済成長も鈍化、やがて深刻な不況に突入する恐れがあるのだ。
 これが現実化したのが1930年代だった。大恐慌で痛手を受けたアメリカが通貨引き下げに走る一方で、イギリスやフランスは自国と自国の植民地を守るための高い関税を課す「ブロック経済」を進めた。ジャイアン化した列強各国に、日本やドイツも応戦した結果、ついには第二次世界大戦という「殴り合い」を引き起こしてしまった。
 この教訓から、戦後は近隣窮乏化政策を抑え込むためのGATT(関税貿易一般協定)やWTO(世界貿易機関)、NAFTA(北米自由貿易協定)といった、自由貿易体制を維持する取り組みが続けられてきた。ジャイアンの動きをけん制するドラえもんを作ろうとしたのであり、その進化形がTPP(環太平洋経済連携協定)だったのだ。
 しかし今、ジャイアンが再び暴れ出している。「アメリカ第一主義」を掲げるドナルド・トランプ大統領は、関税引き上げやドル相場の引き下げを打ち出し、日本や中国への攻撃姿勢を鮮明にしている。保護貿易政策を超えて、近隣窮乏化政策の色彩を持つトランプ大統領は、あっさりTPPも葬り去ってしまった。ドラえもんを失った今、トランプ大統領というジャイアンと、どう向き合えばよいのか……。世界経済には戸惑いと不安が広がっている。

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エコノミスト

玉手義朗

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。現在はテレビ局勤務。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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