連載コラム

2017/2/27FREE

北米自由貿易協定(NAFTA)

お隣さんと仲良く!

目からウロコの経済用語「一語千金」

玉手義朗

 筆者は音楽プロモーターと人気ブランド店勤務の友人と「飲み友達3人組」を結成している。音楽プロモーターの友人には入手困難なチケットの手配を依頼したり、ブランド店勤務の友人からはアクセサリーなどを「お友達価格」で売ってもらったりと、お互いを利用し合う「特典」もある楽しい集まりだが、飲み代は割り勘で、他人の悪口を言わないというのが暗黙のルールとなっている。
 こうした友人関係は国家間でも作られている。その一つが「NAFTA」(北米自由貿易協定)で、アメリカとカナダ、メキシコの北米3カ国(North America)による自由貿易協定(Free Trade Agreement)の略称だ。自由貿易協定は、関税を下げたり、輸入割り当てなどの非関税障壁を撤廃したりすることで貿易や投資を自由に行い、互いに経済成長を実現させることを目的にしている。筆者の飲み友達3人組のように、隣り合う3カ国が「お友達価格」で貿易を行うなど、お互いを利用し合いながら豊かさを追求するのがNAFTAなのだ。
 NAFTAが発効されたのは1994年だが、最も多くの恩恵を受けたのがメキシコだった。関税引き下げでアメリカ向け輸出が急増し、工場が次々に建設されたことで、経済が活性化された。一方でアメリカは、メキシコからの安い輸入品に押されて国内産業が痛手を受けた上に、労働力の安いメキシコに工場を移転させる企業が続出したため、失業者も増加する事態となる。NAFTAによって飲み友達になった北米3カ国だが、割り勘どころか、アメリカがより多く支払う関係になってしまったわけだ。
 NAFTAに不満を抱き始めたアメリカに、追い打ちをかける事態が生じる。メキシコ経由で、他の国からの輸出が増加したのだ。日本からアメリカに輸出する場合、高い関税を支払ったり、様々な制限を課せられたりするが、メキシコからはNAFTAのおかげでフリーパス。そこで、アメリカに直接輸出するのではなく、メキシコに工場を建てて、そこから輸出する企業が相次いだ。これは飲み友達3人組の「特典」を他の人が利用して、ブランド品を「お友達価格」で購入しているようなもの。NAFTAに無関係な第三国の企業が、その利点にタダ乗りしているとして、アメリカの不満は一層高まった。
 この現状を変えようとしているのがアメリカのドナルド・トランプ大統領だ。自国の利益を第一に考えるトランプ大統領は自由貿易協定に否定的で、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱もその現れだった。NAFTAについても、アメリカにばかり負担を押し付けるものだとして、大幅な見直しはもちろん、場合によっては破棄すると主張している。
 さらにトランプ大統領は、メキシコに工場を造って、そこからアメリカに輸出をしているトヨタなどの企業も強く批判し、高率の関税を課すと脅し始めた。トランプ大統領の政策は、NAFTAのみならず、世界中の国々との友人関係を見直し、場合によっては絶交するという強硬なものとなっている。
 筆者の飲み友達3人組は、お互いにルールを守って楽しくやっているが、NAFTAはトランプ大統領の登場で大きな岐路に立たされている。北米3国の友情は保てるのか? 今後の展開に注目が集まっている。

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エコノミスト

玉手義朗

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。現在はテレビ局勤務。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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