連載コラム

2017/4/24FREE

ラップ口座

お金を包んでレンジでチン!

目からウロコの経済用語「一語千金」

玉手義朗

 台所の必須アイテムである食品包装用ラップフィルムは、元々は銃や弾丸を湿気から守る軍用フィルムだった。太平洋戦争後、ダウ・ケミカルの社員がピクニックに出かけた際、妻がレタスを包んだところ「便利だ!」ということになり、食品用として「サランラップ」の名称で商品化される。この商品名は、ピクニックに行った「サラ」と「アン」という二人の社員の妻の名前に、包む(Wrap)という言葉を組み合わせたものだった。ちなみに、日本では同社と旭化成の登録商標となっている。
 サランラップは、その便利さから瞬く間に全世界に普及し、さまざまな食品包装用ラップフィルムが生まれたが、金融の分野でもラップが広がり始めている。それが「ラップ口座」だ。ラップ口座は、証券会社や信託銀行などが、顧客と一任契約を結び、運用から管理までを一括して引き受けるサービスの総称。顧客の希望を受けた投資のプロが、株式や国債、投資信託などから最適の投資先を選び出し、売買から管理までを行ってくれる。お金という「食材」の料理方法を腕利きの料理人が選定し、ひとまとめにして「レンジでチン!」してくれるのがラップ口座であり、利用者は手間いらずで、食事ができるというわけだ。
 ラップ口座は、SMAとファンドラップに大別される。「SMA」(separately managed account)は、株式から債券、投資信託など幅広い投資対象から最適なものを、超一流の投資のプロが選び出し、預かったお金を運用してくれる。最低投資金額は数千万円から億単位と極めて大きい富裕層向けで、ラップ口座というと、このSMAを指すことが多い。SMAを利用するのは大金持ちで、包まれるものも、食材に例えればキャビアや大トロ、トリュフといった高級食材で、超一流のシェフが料理してくれる。
 一方、「ファンドラップ」は、一般の人向けだ。SMAと同じく、投資を金融機関に一任するサービスだが、運用の対象となるのは投資信託(ファンド)が中心で、これを複数組み合わせるというもの。最低投資金額が300万〜500万円とSMAよりかなり小さく、なかには最低投資金額が10万円というものもある。包まれる食材は冷凍食品やレトルト食品が中心だが、プロの料理人が工夫を凝らしてラップに包んでくれる。
 ラップ口座は、投資の悩みや煩雑さから解放してくれるサービスだが、もちろん手数料が発生する。また、元本保証でも利回りを保証するものでもないため、損失が発生することもあり得る。レンジでチンしてみたものの、焦げてしまったり、全く美味しくないものになってしまったりする恐れも十分にある。
 アベノミクス以降の株価上昇を受けて、ラップ口座の人気は着実に高まっている。2016年12月末時点での資産残高は6兆4148億円で、9月末に比べ約7%増えて過去最高を更新した。また、契約件数も53万9274件と過去最高を更新、トランプ相場をうけて株式の運用成績が改善。個人投資家の新規マネーも流入したことが要因だという。
「レンジでチン」できるラップ口座だが、手数料は安くなく、自分でじっくり運用(調理)したほうがよいという人も少なくない。ラップ口座が、食品包装用ラップフィルムのように投資の「定番」となるのかどうかは不透明だ。利用するかどうかは、運用を委託する金融機関と、じっくり話し合った上で決めたいものである。

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エコノミスト

玉手義朗

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。現在はテレビ局勤務。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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