連載コラム

2017/5/8FREE

監査法人

企業の車検を実施します

目からウロコの経済用語「一語千金」

玉手義朗

 日本では自動車が公道を走るためには、車検を通っていることが必要だ。「きちんと整備してある」と所有者が主張しても、自己申告では信用できない。そこで自動車整備業者などの第三者がチェックする車検を課すことで、安全運転を確保し、購入者も守ろうとする。問題ないと思っていた部品を車検業者から「換えないとダメ」と言われて不満を持つ人もいるが、車検を通すことは、自動車を走らせるための絶対条件なのだ。
 企業経営においても、車検と同じ仕組みがある。企業は決算などの財務諸表を作成・開示しているが、あくまで自己申告。そこで財務諸表が正しく作成され、粉飾などの虚偽がないかどうかを、第三者がチェックする財務諸表監査制度が定められている。この監査を行っているのが「監査法人」だ。監査は公認会計士であれば誰でもできるが、企業規模が大きくなると、一人では不可能で、多くの公認会計士を抱えた監査法人が行うことになる。大企業という自動車の車検は、監査法人という大きな車検業者に依頼するわけだ。
 監査法人は企業が作成した財務諸表を精査して、会計基準に則しているかを調べていく。書類の確認はもちろん、経営者や社員に聞き取り調査をし、実際に工場などに赴いて生産状況をチェックすることもある。
 こうした作業を経て出されるのが「監査意見」だ。作成された財務諸表に問題がないと判断した場合には、「無限定適正意見」が表明される。また、一部に問題があるものの、全体的に妥当と認められる場合には、「限定付適正意見」が付けられる。この二つの意見が付けられると、車検が通ったと考えられる。
 一方で、財務諸表全体に重要な影響を与える不適切な事項が見つかった場合、監査法人は「不適正意見」を出す。「この車は整備不良で、車検は通せません!」と表明して、注意を促す。また、重要な部分の監査をさせてもらえず、実態が把握できないこともある。この場合に出されるのが「意見不表明」。ボンネットを開けさせてもらえなければ、車検を通せるかどうか判断できないというわけだ。
 通常は企業と監査法人とで調整を進め、無限定適正意見を得た上で決算発表が行われる。しかし、企業は監査法人の意見に従う義務はなく、適正意見なしでも決算発表することができる。これを行ったのが東芝だった。東芝は2016年4〜12月期決算で、原子力事業を展開する子会社のウェスチングハウスの損失評価について、監査法人と意見が対立した。整備不良を見逃して車検を通せば、自らの信頼性を問われるだけに、監査法人は譲らない。業を煮やした東芝は「ウソはない!」と決算発表を強行、これに対して監査法人は、意見不表明を行った。
 監査法人の意見を無視し、車検を通っていない状態で走り続けている東芝という自動車。このままでは、株主や投資家を危険にさらすとして、東京証券取引所が東芝を上場廃止にする可能性もある。一方の東芝は、監査法人の交代も検討しているという。車検を通してくれそうな別の業者を探そうというわけだが、それでいいのだろうか?
 企業という自動車の車検を実施している監査法人だ。「経済の交通安全」を実現する上で、その重要性は一段と高まっている。

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エコノミスト

玉手義朗

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。現在はテレビ局勤務。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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