連載コラム

2017/7/3FREE

ブレグジット

団体ツアーからの離脱

目からウロコの経済用語「一語千金」

玉手義朗

 筆者が参加していた海外旅行の団体ツアーで、ある夫婦が途中で帰国すると言い出した。態度の悪い同行者がいて、我慢ならないのだという。途中帰国の場合、団体割引適用外で帰りの航空券が高額になると説得する添乗員に夫婦は激怒、旅行代金返却まで要求して、参加者を呆れさせていた。
 同じ事を言い出したのがイギリスだ。「ブレグジット」(Brexit)、“British”と“Exit”を組み合わせた造語で、イギリスのEU(欧州連合)からの離脱を意味している。EUは加盟国が国境の垣根を取り払って「単一市場」を形成、「ヒト」、「モノ」、「カネ」の移動を自由にすることで、経済成長を促そうとする共同体。加盟国が一緒に行動する団体ツアーがEUであり、これによって様々な恩恵を得ようというわけだ。ところがイギリスは突如としてブレグジットを宣言、団体ツアーを抜け出して個人旅行に切り替えると言い出した。
 ブレグジットの最大の理由は、大規模な移民の流入。EUは加盟国間のヒトの移動が自由であるため、イギリスへの移民が急増、これが自国の労働市場を圧迫し、公的サービスの負荷も重くなっていた。また、EUに加盟していることで、政策面での制約も多い。団体ツアーに参加している結果、多くの移民と行動を共にすることになり、自由が奪われて、旅行が楽しめないというわけだ。
 ブレグジットすれば、移民制限が可能となり、他国に配慮することなく政策を展開できるが、失うものも大きい。最大のデメリットは、単一市場から追い出されること。単一市場に参加していれば関税はゼロ、ビジネス上の手続きも簡単だった。しかし、ブレグジットによって単一市場のメリットが失われるため、競争力低下の懸念が広がり、イギリスからの撤退を決めた外国企業もある。団体ツアーから抜け出すことで、団体割引も適用されず、煩雑な旅行のアレンジも自分で行うのは、大きなマイナスになる。
 こうしたことからイギリスは、ブレグジットの交渉過程で、少しでも有利な条件を引き出そうとしている。その最たるものが、EUを離脱しても、単一市場には残留するというもの。穏便なEU離脱と言う意味で、「ソフトブレグジット」と呼ばれているが、EUは断固として拒否している。団体ツアーから個人旅行に切り替える一方で、旅行費用は団体割引継続という「いいとこ取り」は許されない。また、ソフトブレグジットを認めれば、他の加盟国からも同様の動きが出て、団体ツアーが解散に追い込まれる恐れもある。EUは、一切の妥協を許さない「ハードブレグジット」を基本方針としていて、離脱に伴う600億ユーロという巨額の清算金も請求している。団体ツアーから抜けるのは自由だが、「帰国は自力で!」、「キャンセル料を払え!」というわけだ。
 団体ツアーに参加していた夫婦は、添乗員との交渉で、割安チケットを手配してもらい、途中で帰国して行った。ソフトブレグジットに成功したわけだが、イギリスはどうなるのか? EUを率いるドイツやフランスなどの「添乗員」との交渉は、激しいものになるだろう。

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エコノミスト

玉手義朗

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。現在はテレビ局勤務。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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