連載コラム

2017/8/21FREE

負債総額

目からウロコの経済用語「一語千金」

玉手義朗

 首都高で渋滞に巻き込まれた。故障車が原因で、ノロノロ運転の末、動けなくなってる大型トレーラーが見えてきた。整備不良なのか、ガス欠なのかは不明だが、大きな車体を移動するのは容易ではなさそうで、同乗していた知人が「大きいな、何トン車だろう……」と、冷たい視線を浴びせていた。
 経済でも企業という車が動けなくなる事態が発生する。倒産だ。資金繰りがつかなくなる「ガス欠」や製品に大きな欠陥が発覚する「自損事故」、さらにはビジネスモデルの「老朽化」など、様々な要因で企業という車は動けなくなる。倒産して動けなくなった企業の大きさを示す尺度となるのが「負債総額」だ。倒産企業が抱えている借金の合計で、直近の決算で貸借対照表に負債として計上されている数字が使われている。
 企業の大きさを示す尺度としては、時価総額や資本額、売上高や従業員数など様々なものがある。しかし、企業が倒産した場合、最も重要となるのが借金の処理。倒産企業は動けなくなっている車であり、これを撤去するためには借金という「負の積み荷」を降ろすことが必要不可欠となる。故障車の撤去に要する時間や費用、そして経済に与える渋滞という損失を推測する上で、最も重要となるのが負債総額になるのである。
 企業倒産の尺度となる負債総額のランキングを、東京商工リサーチがまとめている。戦後最大の倒産は2000年10月の協栄生命保険で負債総額は4兆5296億円、これに08年9月のリーマン・ブラザーズ証券の3兆4314億円、00年10月の千代田生命保険の2兆9366億円が続く。驚くほどの巨額だが、上位10社のうち、金融機関が7社を占めているのは、金融機関が融資をするための資金調達として借金をしているため。一般企業に比べて負債総額が大きくなるのは当然だが、金融機関は大きな資産も保有しているため、差し引きの純損失が大きく縮小する場合がある。また、倒産の影響が同業者である金融機関にとどまる部分も多いことから、負債総額の大きさほど、経済に与えるダメージが大きくならないこともある。
 しかし、倒産企業が製造業の場合には、取引先や下請け企業など、より広範囲に影響が及び、連鎖倒産や大量の失業を生み出す危険性が高くなる。故障車の大きさは、金融機関ほどではなくても、周辺の交通渋滞を引き起こす度合いは、より大きくなる恐れがある。そこで、製造業については、独自に負債総額の大きさを判断するのが通例だ。
 17年6月、負債総額のランキングを大きく塗り替える大型倒産が起こった。自動車部品メーカーのタカタは、エアバッグの不具合に伴う巨額の損失が生じたことで民事再生法の適用を申請して事実上倒産した。決算上の負債総額は3月末時点で3814億円だが、自動車メーカーが、一時的に負担している費用を負債に加えると1兆4000億円規模になると、東京商工リサーチは推測している(17年6月28日時点)。最終的な負債総額は確定していないが、もし、この額となった場合製造業としては戦後最大で、金融業を含めた全産業でも8位の大型倒産になるという。 
 巨額の負債を抱えて、動けなくなってしまったタカタという巨大な車は、日本経済にどの程度の渋滞を引き起こすのか……。倒産処理の行方に、注目が集まっている。

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エコノミスト

玉手義朗

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。現在はテレビ局勤務。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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