連載コラム

2014/5/24

なぜ冷房は難しいのか?

科学しちゃうぞ!

内田麻理香

 夏の足音が近づいてきて、冷房が必要な季節になりました。とはいえ、節電にも気を配らなくてはならず、思う存分に冷房を使うというわけにもいきませんよね。今回は、冷房の仕組みについて熱力学から科学してみましょう。

 自然界には化学反応がありますが、その多くは石油などを燃やすと大量の熱が発生するというように「高熱源」を作る発熱反応です。しかし、その反対である「低熱源」を作るのは科学的にとても難しいことなのです。ドライアイスを使えばいいんじゃない? という声が聞こえてきそうですが、ドライアイスは地球上のどこからか掘り出せるものではなく、作らなくてはなりません。作るためには、まず「冷やすもの」が必要になります。この「冷やすことは難しい」は「クラウジウスの原理」で説明できます。クラウジウスの原理とは「外部に何の変化も残すことなく、熱を低温の物体から高温の物体に移すことはできない」というものです。「外部に何の変化も残すことなく」とはわかりにくいですが、「ひとりでに」「勝手に」と置き換えればいいでしょう。

 この原理を身近な現象で考えてみましょう。氷水を室温で放置しておいたら、氷はだんだん小さくなり、周囲の水に溶けてしまいます。これは熱が「温度の高い水」から「温度の低い氷」に移動していったということです。しかし逆の現象、氷水を室温に放置しておいてどんどん氷が増えることはありえません。熱が「温度の低い氷」から「温度が高い水」に移動することはできないからです。これが「クラウジウスの原理」です。

 さて「低温の物体」の身近な例で、冷蔵庫を考えてみましょう。冷蔵庫の庫内は、室温よりも低い温度が保たれています。これは、低温の物体から高温の物体に熱を移動し続けた結果、冷蔵庫の中の冷たさが保たれているのです。しかし外部からなんらかの働きかけをしないと冷蔵庫の庫内の温度は下がらず、低温を保つことができないのです。つまり、冷蔵庫の熱(Q)を外部に移動させる仕事(W)が必要で、その仕事(W)が「電気エネルギー」ということになります。

 ここで移動した熱(Q)の行方が気になるところですが、消えてなくなるわけではありません。冷蔵庫の庫内から熱(Q)が移動して冷えた分、どこかが熱くなります。それがどこか分かりますか? 答えは冷蔵庫の背面です。ですから、冷蔵庫の周囲は温かくなっているというわけです。冷蔵庫内の熱(Q)を外部に移動させるための電気エネルギー(W)のすべてが冷蔵庫内を冷やすために使われればいいのですが、これは原理的に無理な話です。ですから、使われなかった分が熱として周囲に放出されるのは避けられず、これがさらに冷蔵庫の周囲を熱くする原因になっています。ちなみにパソコンが熱くなるのもまったく同じ原理で、パソコン外部に熱を追い出すことができても、やはり熱は消えてなくなりません。ですから、パソコンを使うと部屋の温度が高くなってしまうのです。

 もう一つ、「低温の物体」の例としてエアコンを考えてみましょう。エアコンを使うと部屋の温度は下がります。どこに熱を放出しているのでしょうか。答えは室外機です。エアコンの排熱装置を部屋の外に置くことで、熱は室外に排出され、部屋の中は涼しく保たれるというわけです。もちろん、熱は消えるわけではなく、単に外に移動しただけです。ですから、室外の温度が高くなり、これが都市部の温度が郊外よりも高くなる「ヒートアイランド現象」の原因のひとつとなっているのです。

 このように冷やすことの難しさを知ると、冷蔵庫やエアコンのありがたさを再確認できますよね。電力を大事に使わなければならない昨今、「冷やす機械」と上手につきあっていきたいものですね。

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サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター

内田麻理香

1974年千葉県生まれ。東京大学工学部、同大学院修士課程修了。科学の視点で生活を分析するサイト「カソウケン(家庭科学総合研究 所)」主宰。東京大学工学部広報室特任研究員を経て、現在、テレビ、ラジオ、新聞を通して「生活の中の科学」を分かりやすく紹介するサイエンスコミュニケーションにたずさわっている。主な著書に『科学との正しい付き合い方』(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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