連載コラム

2017/2/2FREE

スポーツできるとなぜ偉い?

生きづらい女子たちへ

雨宮処凛

それが社会的な影響力を持つ。はっきり言って、悪夢である。
 さて、そんな私の中学時代は、部活以外でも体育会系「精神論」が蔓延していた。全校集会での「整列」や、体育祭での「行進」などに教師たちが異様なほど熱心で、生徒の父母たちからは「軍隊のよう」と苦情が出るほどだった。そして部活でも教室でも、恐ろしいほどに体罰がまかり通り、教師たちは「全員並んで歯を食いしばれー!」と、戦争ものの漫画に登場する憲兵のように、生徒の顔を日常的に張り倒していたのである。宿題を忘れたとか、忘れ物をしたとか、そんな理由で。

 そう、体育会系精神論を突き詰めると、そしてその価値観がどこから来たのか考えると、戦争とか軍隊とか、どうしてもそっち系に行き着くのだ。だからこそ、「戦いの勝利」の足手まといになる人間は、徹底的にいじめ抜いてもいいことになる。
 そのうえ、「精神論」は後先を考えない。科学的根拠も関係ない。「とにかく耐え抜いて気合いで乗り切れ!」と、あまりにも雑に人を追い詰める。ちなみに、太平洋戦争の戦死者の半数以上の死因は餓死であるわけだが、ここにもその「気合い至上主義の犯罪性」が浮かび上がる。
 それなのに、やはり今もこの国には悪しき精神論が蔓延している。「企業戦士」「経済戦争」「24時間戦えますか」という言葉が使われなくなったとしても、毎年多くの人が過労死・過労自殺に追い詰められている。
 厚生労働省によると、2015年度に過労死で労災認定された人は96人。過労自殺(未遂を含む)は93人。また警察庁の統計を見れば、15年に「勤務問題」で自殺した人は2159人。
 そんな現実から、多くの人が目を逸らしている。職場の誰かが明らかに過労で心を病み始めているのに見て見ぬふりをし、満員電車では体調の悪そうな人を見て見ぬふりをし、取引先に無茶な要求をする上司を見て見ぬふりをする。そうして何もかもシャットダウンするように、スマホのゲームに熱中する。

 イダ氏の本には、こんな記述がある。
「競争社会、差別社会、管理社会でまともにそれを受信して反応していたら精神は持たないので、傷つかないように、壊れないように、現代人の多くは、自分に対しても他者に対しても精神を鈍磨させている。それは今の教育やメディアの結果でもある。ナチスのユダヤ人収容所で多くの人は何を見ても何も感じないように、無感動、無関心、無感覚になったという(フランクルはこれを、心の装甲、文化的冬眠という)が、現代人もそれと似た状況となっている」
 文化的冬眠。
 確かにそれは、この社会を生きる一つの作法になってしまっている。
 さて、「スポーツ怖い」「体育会系恐怖」ということを書いていたら、なんだか壮大なところまで話が膨らんでしまった。
 というか、ここまで書いて、私が苦手なのはスポーツやスポーツマンではなく、体育会系の精神論なのだということがよくわかった。
 次回は、「主流秩序」という概念を生み出したイダヒロユキさんをゲストにお呼びし、この「生きづらい社会」の根幹について、根掘り葉掘り聞き出す予定だ。
 思いもよらないところに、私たちの「生きづらさの根」があるのかもしれない。
 楽しみにしていてほしい。

次回は3月2日(木)の予定です。


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作家、活動家

雨宮処凛

1975年生まれ。2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版) でデビュー。 若者の生きづらさについての著作を発表するかたわら、イラクや北朝鮮へも渡航。 06年からは新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、 メディアなどで積極的に発言。著書に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(ちくま文庫) 、『バカだけど社会のことを考えてみた』(青土社) など多数。

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