連載コラム

2016/12/22FREE

「親子断絶防止法」大人が勝手に決めないで

仁藤夢乃“ここがおかしい”第13回

バカなフリして生きるのやめた

仁藤夢乃


「親子断絶防止法」(正式名称は「父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律」)という法案の国会提出を、自由民主党の保岡興治議員を会長とする超党派親子断絶防止議員連盟が目指している。
 この法案は親が離婚や別居をする際に、親権を求めて「子どもを無断で連れ去る」行為が多いことから、子どもと別居親の面会交流の義務化や、別居する前に子どもの監護者を決めるのを国が促すことなどを定めるものである。
「親子断絶」というと、なんだかすごく怖いことのように感じるし、「子どもの連れ去りなんてよくないよね」と思う。もちろん両親が別居したり、離婚したからといって、子どもにとって親が親であることに変わりはなく、親子が交流する権利は双方にあり、面会交流は大切だと思う。しかし親の離婚を経験した中高生以上の子どもに関わる者として、そして親の離婚を経験した当事者として、私はこの法案に「待った」と言いたい。
 この法案の目的について、2016年9月の議員連盟総会で配布された資料によると、骨子には「離婚等の後も子が父母と親子としての継続的な関係を持ち、その愛情を受けることが、子の健全な成長及び人格の形成のために重要である」「離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進を図り、もって子の利益に資する」とある(「面会交流等における子どもの安心安全を考える全国ネットワーク」ホームページより)。
 法案成立を目指す「親子断絶防止法 全国連絡会」のホームページにも、「両親の愛情が子どもの健全な成長に不可欠であるとの認識のもと、子どもの連れ去り別居、その後の引き離しによる親子の断絶を防止し、子の最善の利益が実現される法制度の構築を目指す」とある。しかしその中身を見ていくと、子どもの利益のためではなく、別居親の利益のための法案に思えて仕方ない。
 そもそも、目的に「離婚等の後も子が父母と親子としての継続的な関係を持ち、その愛情を受けることが、子の健全な成長及び人格の形成のために重要」云々とあるが、私は、両親の愛情がなくてもそれ以外の養育者など、他人との関わりを通して健全に育っている人を知っている。確かに、両親の離婚は子どもにとって様々な影響を及ぼすが、親からの愛情は面会交流がなくても感じられるかもしれず、逆に面会交流があるからといって両親の愛情を受けられるかどうかもケースバイケースである。そして何より、離れた親との交流を続けることが子どもの利益になる、ということが前提とされていて、それを法律で決められてしまうことは怖いと思う。
 この法案についての様々な懸念が、離婚家庭に関わる支援者たちからも出されている。離婚、DV、親子など家族の問題が専門で、Colabo(コラボ)の活動にも監事として関わってくださっている打越さく良弁護士は、 (1)子どもを連れて別居することには様々な実情があることを踏まえていない、(2)養育費について関心が乏しい、(3)面会交流が子の利益に反する場合でも、例外と認められるか不明、(4)子どもの意思への配慮がない、(5)当事者に義務付けるのみで、公的な支援のあり方が不明、(6)国がさまざまな事情にある子どもがいることを想定せずに、「人格形成のために重要なもの」を打ち出す、という六つの問題点があると指摘する(「弁護士ドットコム」ホームページ https://www.bengo4.com/c_3/n_5434/より)。
 武蔵大学社会学部の千田有紀教授は「親子断絶防止法案の問題点―夫婦の破たんは何を意味するのか」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161018-00063335/)という論説の中で、そうした各方面からの懸念をまとめている。千田教授はまた、外国での失敗例についても「オーストラリアの親子断絶防止法は失敗した―小川富之教授(福岡大法科大学院)に聞く」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/sendayuki/20161212-00065383/)に書いている。
 この法案の問題点は以上のようにたくさんあるのだが、私は当事者としての子どものための視点が、この法案に感じられないことにがっかりしている。子どもにとっての最善の利益を、面会交流をすることで親子間の関係を維持することと決め付けて、思考停止しているのではないかと思う。

私が経験した親の離婚



 私の両親は私が中学生の時から別居を始め、高校を中退した後で離婚が成立した。その数年間、家庭はかなり荒れていて、私にはその頃の家族との記憶があまりない。つらすぎて、その頃の感情や記憶をなくしているのだと思う。こうした症状を医学的には「解離(かいり)」といい、死ぬほどつらいことがあった時などに自らの心身を守るため、誰にでも起こる可能性があるそうだ。私以外の家族も、この時期のことについては覚えていないことが多いという。
 私が中学生の時、父が単身赴任をするようになってから、両親が子育てのことで激しい言い合いをするようになった。母は父のことを「あの人は亭主関白だから」と言っていたが、父は母を「貴様」と呼んだり、あごで使ったりしていて、今思えばDVのある家庭だったと思う。仕事も家事も完璧にこなさなければ、という意識の強かった母はうつになり、父との関係や子育てに悩んでよく泣いていた。
 母からは「あの人は子育てに協力的でない」とか「あの人には何を言っても仕方ない」「自分の都合のいい時だけしか動かない」という父に対する愚痴をよく聞かされていた。私も父から「誰の金で飯食ってると思ってるんだ」「出ていけ」と言われたり、ひどいことをされていたので、母が口にする父への文句にはほとんど共感していたのだけれど、父のことを素直に好きと思えなくなったのは、母の態度にも影響を受けていたからだと思う。母との関係も悪くなっていたので、両親を恨むこともあったが、父のことも母のことも心底嫌いにはなれず、親が変わってくれることを期待しては、傷ついていた。
 調停で両親の離婚が決まったのは私が18歳、妹が15歳の時で、私は「どちらの親と同居したいか?」と一応意見を求められた。子どもたちの親権者が母に決まって、母と暮らすことになり、私はこのままだと父が独りぼっちになってしまうと思い、父の扶養に入ることを選択した。先日、母に確認したところ、私の両親は子どもたちが自分で連絡をつけて父に会いに行ける年齢になっていたことなどを理由に、離婚の際に面会交流についての取り決めはしなかったそうだ。
 しかし両親の別居中、そして離婚後も、私は父と会うことについて、いろいろな葛藤があった。

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社会活動家

仁藤夢乃

1989年、東京都生まれ。中学時代から東京・渋谷で家出生活を繰り返し、高校を2年で中退。後に恩師となる予備校講師より知遇を得て、農業・国際貢献活動に従事。2009年、明治学院大学社会学部に進学。在学中から高校生に目を向けた活動を始め、卒業後の11年に一般社団法人 女子高校生サポートセンターColaboを設立、代表理事をつとめる。第30期東京都青少年問題協議会委員。著書に『難民高校生』(英治出版)、『女子高生の裏社会』(光文社新書)。

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