連載コラム

2017/3/30FREE

第15回 三上智恵「歴史に学ぶ」

軍隊は軍隊しか守らない

戦争と平和のリアル

三上智恵
構成・文/朴順梨

 三上智恵監督の新作映画「標的の島 風(かじ)かたか」(2017年)は、16年6月に沖縄県那覇市内で開かれた、県民大会のシーンから始まる。集まった約6万5000人に向けて古謝美佐子さんが歌う『童神(わらびがみ)』は、子どもの成長を願う母親の気持ちを描いたものだ。古謝さんは誰を思って歌ったのか。それは16年4月に元米海兵隊員に暴行されて亡くなった、20歳の女性だ。この県民大会は、彼女を追悼するために開かれたものだったのだ。
 次に場面は那覇から宮古島に移る。すると赤ちゃんを抱く石嶺香織さんが現れ、石嶺さんが共同代表をつとめるお母さんグループ『てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会』のメンバーが、自衛隊のミサイル基地建設予定地に向かう様子が映し出される。彼女たちは島の子どもを守るために、基地建設反対の声をあげる大事さを切々と訴える。そして話は石垣島と沖縄本島の辺野古・高江につながっていき、それぞれの場所で基地建設に反対する人たちの姿を描いていく。この映画を作った経緯を三上監督は次のように語った。



沖縄戦で国境の島々が背負った運命



「前作の『戦場ぬ止み(いくさばぬ とぅどぅみ)』(15年)を編集していた15年の3月頃に『いよいよ自衛隊が石垣と宮古にも来るらしいよ』という話を聞き、『前からずっと心配していたことがついに現実になったのか』と焦ってこの作品の製作にかかりました。沖縄の島々にミサイル基地を造って中国の軍艦を封じ込める『エア・シー・バトル構想』については、以前から沖縄県選出の伊波洋一参議院議員から聞いていましたが、『まさかそんなことになるはずがない。アメリカが要請したとしても、防衛省が自分たちの国土を戦場にするような計画を、やすやすと引き受けるわけがない』と思いたかった。なのに15年5月に沖縄の地元紙の1面に宮古・八重山地域に自衛隊が配備されると載っていたので、ついに来たかって。でも、それ以上に沖縄本島の住民の関心が、『八重山地域にミサイル基地? 何それ?』程度の浅いものだったことに、私は衝撃を受けたんです。72年前の沖縄戦で何が起きたのか、国境の島々がどんな運命を背負わされたのかということを沖縄県民にも思い出してもらいたくて、今回の作品を作ろうと動きました」

 石嶺香織さんは17年1月、宮古島市議会議員補欠選挙に立候補し、自衛隊配備反対などを訴えて当選した。しかし同年3月21日、同市議会は彼女に対する辞職勧告決議を可決している。その理由は石嶺議員が自身のFacebook上に、陸上自衛隊部隊が宮古島に来たら「絶対に婦女暴行事件が起こる」とコメントしたことが原因だった(「事実に基づかない表現でした」と謝罪をして現在は削除されている)。
「この発言は暴言であり、市議会の品位を著しく傷つけるもの」であることが決議理由だと3月21日付の琉球新報が報じていたが、本当にこれは「根拠のない暴言」なのだろうか? 
 というのも戦時中、日本軍は「現地女性への強姦防止」「性病防止」「機密保持」などの大義名分により、沖縄の各地に慰安所を設けてきた。日本軍が駐留する地に慰安所を作らなければ現地女性が強姦されると、自分たちのほうから考えていたのだ。
「それは70年以上前の話であって、今とは時代が違う」と反論するかもしれない。しかし県民大会を見てもわかるように、沖縄では今でも女性が性犯罪の被害に遭い、命まで奪われている。
 また戦時中、石垣島の住民は軍の命令でマラリアが蔓延する地域に強制疎開させられている。波照間島の住民に至っては島を追い出され、やはりマラリアが蔓延する西表島に移されている。石垣島でのマラリアによる死者は、約3700人。沖縄では地上戦があった本島だけではなく、離島でも多くの人が命を落としている。なぜ日本軍はマラリアにかかる恐れがある地域に、住民を移住させたのか。それは三上監督の今回の映画に登場する元鉄血勤皇隊(10代学徒の兵部隊)の潮平正道さんによる、「軍隊っていうのは、軍の秘密を守ることが最優先ですよ。国民の命よりも」という言葉に尽きるだろう。つまり住民がアメリカ軍の捕虜になって情報を漏らすぐらいなら、マラリアであれ集団自決であれ、消えてもらうしかないと考えていたのだ。

強引に進む南西諸島要塞化



 戦いの犠牲は兵士だけではない。民間人、それも子どもや女性など力の弱い者から命を奪われていく(だから「絶対」は言い過ぎだが、石嶺議員が抱いた危惧は、根拠のない暴言とは言い難いのではないか)。しかし三上さんによると石垣・宮古の住民の中にも「中国の脅威から日本を守るためには自衛隊基地が必要」「自衛隊が来てくれると、過疎地域の人口が増える」と、歓迎する者も少なくないという。



「本土の若者たちが中国の脅威を口にするのと同じように、宮古や石垣でも『中国が怖いから、アメリカ軍や自衛隊に守ってもらうしかない』という考えに引っ張られる人はいます。それはかつての沖縄県民が、敗戦が濃厚なのに『連戦連勝の日本軍が島に来て守ってくれたら安心だ』と信じ切っていた感覚と、そう違わないかもしれません。私は地団太を踏みたいぐらい悔しいですが、島の人たちが自衛隊に対して『地震が起きて、津波が襲ってきても助けてもらえるよね』と思ってしまうのは、仕方がないところもあります。なぜなら自衛隊はドクターヘリによる医療支援など、地域になじむための努力をずっと続けてきましたから。もちろん一人ひとりの隊員は、純粋な善意で動いていると思います。だからこそ『エア・シー・バトル構想』のように米軍の戦略の一部として、島の人々の気持ちなど二の次にして自衛隊基地建設を進めることは、これまでの彼らの善意や努力が無駄になることにもつながると思うんです。米軍のオスプレイ・ヘリパッド建設を進めている高江の建設現場で、民間のものではなく自衛隊のヘリによって重機が運び込まれる際に『やっぱり自衛隊の正体はこれだったのか、と言われたらこれまでの信頼関係が台なしになってしまう』という声が自衛隊内部から上がったのです。沖縄にいる自衛隊員たちが危惧するほど強引に自衛隊が南西諸島の要塞化を進めようとしているのに、実際県民の関心は全体ではまだ低調です」

誰もが加害者になりうる



 沖縄県民であっても「よくわからない」や「興味がない」のだとすれば、本土の住民に至っては言うまでもないだろう。

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ジャーナリスト、映画監督

三上智恵

東京都生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる~沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945~島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か~沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。著書に『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店、2015年)『女子力で読み解く基地神話』(かもがわ出版、2016年)。

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