連載コラム

2017/5/31FREE

第17回 望月衣塑子「歴史に学ぶ」

「戦争したいのは誰なのか」

戦争と平和のリアル

望月衣塑子
構成・文/村山加津枝

2016年4月、科学者の国会ともいえる、日本学術会議の大西隆会長が、あくまで私見としながらも、それまで日本学術会議が掲げてきた「軍事研究の否定」を覆すかのような発言をした。それを受け、日本学術会議内に「安全保障と学術に関する検討委員会」が立ち上げられ、2017年3月までに全11回の委員会が開催された。そこには毎回、委員会閉会後すぐに報道席から委員席に駆け寄り、いわゆる、ぶら下がり取材をする東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者の姿があった。望月記者は武器輸出関連企業や防衛省、国会議員にも取材を続けてきた。



武器輸出に向けた動きが活発化



「私はもともと社会部で千葉や埼玉の県警や東京地検特捜部などを取材、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑などを担当してきました。しかし出産後、経済部に配置換えになり、正直戸惑っていました。そんな私に、上司がすすめてくれたのが武器輸出問題でした。2014年4月、第2次安倍内閣が『防衛装備移転三原則』を21人の閣僚のみで閣議決定、武器輸出の方向に大きく舵を切った頃です」
 輸出、となれば確かに経済の問題でもある。しかし軍事にも政治にも、さして興味のなかった彼女が、いわば周辺取材である日本学術会議の委員会に毎回参加、積極的にかかわっているのはなぜなのか?
「まず手始めに、関連企業や防衛省、国会議員など様々な人を相手に、それまでの人脈がほとんど使えない状態で取材を始めました。当初は企業には取材拒否され、関係官庁からは締め出され、防衛省幹部からは説教されるといった状態が続きました。それでも、実態として武器輸出が解禁になったことで、にわかに武器輸出に向けた動きが活発化していくのを見ていて、大きな危機感を感じたのです。
 14年6月、パリにおいて隔年で行われている世界最大規模の陸戦兵器およびセキュリティー関連製品の展示会『ユーロサトリ』に、初めて日本のブースができ、日本企業が参加しました。それまでも海外にある子会社が参加したことはあったものの、解禁というお墨付きを得た感があったのではないでしょうか。
 15年5月には、海洋防衛およびセキュリティーの国際的総合展示会『MAST Asia 2015』が日本で初めて横浜で開催されました。イギリスの民間企業マスト・コミュニケーションが主催するこの展示会は、防衛省に加え、外務省と経済産業省とが後援しました。
 アメリカの軍事企業大手ロッキード・マーティン社をはじめとする防衛企業や団体が125参加し、日本からも海上自衛隊と、三菱重工業や日立製作所、川崎重工業など企業13社が参加しました。NECと極東貿易は日本ブースとは別に、単独で社名の入ったブースを出していました。欧米を中心に中東やアジアなど39カ国の海軍幹部も参加し、来場者数は予想を倍近く上回る3795人だったそうです。
 政府や防衛省は“防衛装備品”という言葉を使っていますが、その内容は武器そのものです。経済産業省のホームページでも『防衛装備とはなんですか?』という問いに『防衛装備とは、武器及び武器技術のことをいいます』と回答しています」

韓国PKO部隊に武器弾薬を無償提供



 防衛装備という冠のついた防衛省の外局「防衛装備庁」が設立されたのは同じ2015年10月のことだった。
「武器輸出三原則の見直しについて注目されるようになったのが第2次安倍内閣になってからということもあり、これを推し進めてきたのは自民党という印象を持たれる方が多いのではないでしょうか。
 実は民主党政権下、鳩山政権のときすでに、当時の北澤俊美防衛相が見直しを検討したいと発言していました。次の菅直人政権下でも見直しを盛り込む方向だったものの、社民党との連携を重視し、見送る結果となりました。しかし野田佳彦政権下では改めて見直しの可能性を示唆、イギリスのキャメロン首相との会談で、アメリカ以外ではじめて、武器の共同開発を進める方針で合意したという経緯があります。
 自民党が与党に復帰した第2次安倍内閣の下、13年12月に『国家安全保障会議(日本版NSC)』が発足、同月、緊急の必要性と人道性が極めて高いという理由から、南スーダンの韓国軍の国連平和維持活動(PKO)部隊に対して、1万発の弾薬の無償提供を許可しました。
 それまで自民党政府においても、『国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(PKO法)』第25条の『物資協力』に武器や弾薬、装備は含まれないとしてきたのに対し、安倍政権は『PKO法には武器弾薬という適用除外は明記されていない』と説明、この弾薬無償提供について過去の政府答弁との整合性を主張しました。適用除外が明記されていないものが無償提供できるとしたら、歯止めがないのと同じです」
 これらと同時期に進められていたのが、オーストラリアの潜水艦事業の受注だった。当時、首相が親日派のアボットで日本に有利という下馬評はあったものの、防衛省内でさえ、機密の多い潜水艦の輸出はハードルが高すぎると話す幹部がいた。それでも日豪首脳会談や外務・防衛閣僚会議などが行われ、16年2月には三菱重工業の宮永俊一社長自らが現地入り、4月にはそうりゅう型潜水艦「そうりゅう」と現地海軍とで共同訓練も行うなど積極的な活動が見られた。ところが……。
「アボット首相から親中派のターンブル首相に代わった15年9月から、潮目が変わった、という声がありました。それが的中、16年4月26日、受注先がフランスに決まったという発表がされたのです。関係者にはまさに衝撃の結果だったことでしょう。
 一方で、安堵の声も聞かれました。潜水艦というのは、1400社がかかわり、機密性の高い技術や部品が集約されています。その機密流出を阻止する対策や支援体制は皆無で、受注が決まってからそれらを決めるとしていることに、不安を感じる関連企業の人たちが数多くいたのです。安全保障関連法にしても、テロ等準備罪(共謀罪)にしても、何かにつけて現政権は早急がお好きなようです。

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東京新聞社会部記者

望月衣塑子

1975年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、東京・中日新聞に入社。社会部記者として千葉、埼玉など各県警、東京地検特捜部、東京地方裁判所、東京高等裁判所などを担当。出産後、経済部に復帰。現在は社会部に戻り、武器輸出、軍学共同などを主に取材。主な著書は『武器輸出と日本企業』(2016年、角川新書)、共著は『武器輸出大国ニッポンでいいのか』(16年、あけび書房)。(2017.5)

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