相棒を失っておしゃべりになった「マネ」
加藤 たい平さんのお宅にはいろいろな動物がいるんですよね。たい平 今は猫1匹、ウサギ1匹、金魚2匹に、ミドリガメが2匹です。
加藤 今日は猫のことを中心にお聞きします。このコの名前はなんですか?
たい平 マネです。もう1匹、ミレーという兄弟猫がいたのですが、3年前に亡くなりました。
加藤 どういう経緯で猫を飼うようになったのですか?
たい平 猫は結婚してからです。僕はもともと犬派で猫にはそれほど興味はありませんでした。子どものころずっと犬が欲しかったけど、家が商売をしていたし、父があまり好きではなかったので、なかなか飼ってもらえなかったんです。だから、近所の犬を散歩させてもらったり、お皿に牛乳を入れて犬が飲むまねをしてアピールしたり(笑)。ようやくペスという雑種の犬を飼えたときは、本当にうれしかった。その後、いろいろな動物を飼いましたが、猫は結婚前にかみさんが飼ってたんです。元は河原にいたホームレス猫で、保護されて家ができたからホームズと名づけられた、すごく太った黒猫。かみさんと一緒にうちに来て、猫がいる暮らしも楽しいなと思っていたら、がんで死んでしまったのです。
加藤 ホームズがたい平さんにとって初めての猫だったのですね。
たい平 そうです。ホームズがいなくなった後、知り合いの日本動物愛護協会の人に、ペットが死んだときはもう飼えないと思うのではなく、もう一度飼ってあげることが亡くなった動物の供養にもなると言われたんです。その頃、いつも行っているおすし屋さんの路地で、子猫が3匹生まれてもらい手を探しているというので見に行ったら黒猫がいた。これはホームズの再来だと思って2匹引き取りました。それがマネとミレー。もう15~16年前のことです。
加藤 マネとミレーはどんな感じでしたか?
たい平 ふたりともオスですが、性格はぜんぜん違いました。ミレーは白黒猫でおっとりしていて一日中寝ているようなコ。人にいじられてもされるがまま。一方のマネは好奇心旺盛で外が大好き。ミレーはひざに乗って人間のそばにいるのが好きだけど、この人(マネ)はひざに乗らない。
加藤 「人」じゃないって(笑)。ミレーがいなくなって、何か変化はありましたか?
たい平 ふたりは仲良しでいつも寄り添っていたので、ひとりになってマネは急におしゃべりになりました。それまではミレーといっぱいしゃべっていたんでしょうね。
加藤 多頭飼育で1匹いなくなると、残った猫の性格が変わることはよくあって、だいたいベタベタになります。うちもそうでした。
たい平 ベタベタまではいかないけれど、マネはとにかく話しかけてきます。以前はほとんどニャアニャア言わなかったのに、今ではうちの子どもたちにもずっと何か話しかけている感じです。さびしいのか、ウサギにも猫パンチでちょっかいを出してます。ウサギはケージの中なので、「パンチしたって俺はケージで守られてるんだぜ」って余裕です。ウサギとの関係は良好です。
住み込み修業時代は海老名家の生きもの係
加藤 なにか落語のネタになるくらいおもしろい猫のエピソードはありませんか?たい平 猫のおもしろい話、ネタですか(笑)。うーん、何があるかな~。
加藤 思い出してください(笑)。そういえば、カメはどこで飼っているんですか? 実はうちにも以前、カメがいたんですよ。
たい平 そうなんですか。うちは屋上にカメ用の池を作りました。子どもが小さいころに夜店ですくってきたミドリガメで、これももう15~16年かな。かなり大きくて、20センチくらいあります。
加藤 上手に育てましたね。案外育てられなくて、ミドリガメは小さいままだと思っている人が多いんですよ。うちのは友人から譲り受けたセマルハコガメで、30年近く飼っていました。当時は庭のあるアパートに住んでいて、冬は室内、夏は庭で過ごし、脱走防止のカメ止め柵も作っていましたが、何度か脱走して警察に届けられていたこともあるんです(笑)。
たい平 僕も同じような経験があります! 今から二十数年前、初代林家三平師匠の海老名家に住み込みで修業していたころ、スッポンがいたんです。そもそも今の正蔵師匠(当時の林家こぶ平さん)が楽屋見舞いにいただいたもので、「精力つけて」っていう芸人さんのしゃれなんですが、「こんなの食べられないよ~」って言うから水槽で飼うことに。で、冬は土の中に潜って冬眠してたはずなのに、春に掘ったらいない(笑)。スッポンが逃げたというとみんな怖がるだろうから、「スッポンに似たカメが逃げ出しました」というチラシを作って電柱に貼りました。でも、正蔵師匠が『笑っていいとも!』に出たときに言っちゃったもんだから、電話がいろいろかかってきて。警察からも「清澄橋通りを歩いていたスッポンを捕獲したので確認に来てください」と連絡があって僕が行ったのですが、「お宅のですね」と言われてもスッポンはどれも同じ顔にしか見えないから確認しようがない(笑)。でも、警察も「お宅のだと言ってください。言ってくれないと拾得物なので警察で当分飼わなくちゃいけなくなるから」って言うので、連れて帰りました(笑)。
加藤 アハハハハ(笑)。
たい平 海老名家では他にもいろいろな生きものの世話をしましたよ。あるとき、おかみさんのところに活きクルマエビが届いたんです。箱を開けたら1匹ピョーンと跳び出して、おかみさんが「あら~生きてる。かわいそうで食べられないから飼ってあげましょう」って。世話するのは僕なんですけどね(笑)。仕方ないからスーパーで大きなたらいを買い、熱帯魚店で海水を買って塩分の濃度もちゃんと調整して30匹くらいのクルマエビを入れたら、とってもうれしそうに泳いで「ありがとう!」って一斉に僕の方を向いたんです。みんな両手でVサインを出してました(笑)。
加藤 気のせいだって(笑)。
たい平 命を助けてくれたってわかるんだな、いいことしたなと思いながら、その晩、僕は寝ました。でも、夜中にエビの様子が気になったおかみさんがたらいを見に来て、あら、なんか殺風景でかわいそうだからもっと海っぽくしてあげたいわって、「ふえるワカメ」を3袋も入れちゃったんです。