連載コラム

2017/3/7FREE

第16回 山口恵以子さん(作家)

人間万事塞翁がDV猫。猫たちは私の心のお守りです。

加藤由子のガチ猫談義

山口恵以子/加藤由子

「食堂のおばちゃんが松本清張賞を受賞した!」と話題になった作家の山口恵以子さんに会いに行きました。丸の内新聞事業協同組合の社員食堂で働きながら小説を書き、55歳のときに『月下上海』で受賞。以後、テレビのコメンテーターや雑誌の人生相談などでも大忙しになり、現在は執筆のみを生業としています。猫好きとしてより酒豪としてのほうが有名な人です。猫好きの酒好き……、親近感、満載です。


白と黒、凶暴な2匹に振り回されて



加藤 こんにちは。わぁ、いすとかソファとかバリバリやられてますね。
山口 家じゅうすごいんで気にしないでください。よろしかったら後ほど、2階の廊下の壁にあるうちの猫たちの芸術作品を見てやってくださいませ。ナスカの地上絵みたいな引っかき傷がありますから。
加藤 アハハハハハ。ぜひ見せてください。
山口 うちの猫たち、2匹とも凶暴なんですよ。こっちの白猫がボニーちゃん。4歳のオスで、よく咬みます。と言っても兄の手だけ集中して狙われるんですが。もう1匹、黒猫のエラちゃんは咬まないけれど行動が乱暴。私がキッチンに立っているのもおかまいなしに、階段から冷蔵庫に勢いよく飛び移るから、エラが私の顔面に直撃して、鼻の骨が折れそうになったり、脳しんとう起こしそうになったり、まあひどいもんです。
加藤 真っ白と真っ黒、いいですね。エラちゃんもオスですか?
山口 エラはメス。年齢はボニーと同じ4歳です。
加藤 ボニーちゃんの目の色、淡いきれいなブルーですね。2匹とも同じくらいの時期に来たんですか?
山口 まずボニーが来て、半年後にエラが来ました。うちにはずっと猫がいたんですが、前の猫が亡くなってからは、2年くらい1匹もいない時期がありました。そしたら、近所の猫ボランティアの人に「子猫、どうですか?」って声をかけられたんです。当時、私は食堂の仕事をしながら執筆活動もしていて毎日忙しかったので、今は猫がいなくてもいいかなと思っていたんですが、真っ白で目がブルーって聞いた母が「絶対にほしい」と言うもんで引き取りました。で、ボニーが生後6カ月のとき、去勢手術のために動物病院へ行ったら、里親募集中の黒猫がいたんです。家に帰って母に話したら、「白と黒がいたら素敵。ぜひ連れていらっしゃい」と。家に来たのはボニーのほうが早いけど、年齢は1カ月くらいしか変わりません。ボニーが凶暴なのでおとなしい猫だとかわいそうだと思ったけど、エラも気が強いおてんばだったので、まあまあうまくいってます。バトルもしょっちゅうありますが、お互い嫌いではないようなので。
加藤 猫同士は一緒に寝ているんですか?
山口 ええ、私のベッドで。エラが私の頭のほう、ボニーが足元で寝ていますね。
加藤 寝ているときに飼い主の顔の近くに来るのと顔から離れるのは、猫同士の力関係があるんだと私は思うんです。先に来たボニーちゃんのほうが足元なんですね。
山口 ボニーは甘ったれのくせして抱かれるのが嫌いなツンデレなんです。母がいすで居眠りをしているとお腹の上に乗るくせに、乗せると逃げちゃう。
加藤 自分からいくのはいいけれど、されるのは嫌なんですね。
山口 そうです。抱かれる猫から抱く猫へ、みたいな(笑)。
加藤 なんか意味深でいいですね(笑)。あら見て、ボニーちゃんのあのポーズ! こんなポーズをする猫、初めて見ました。
山口 お得意の色男ポーズです。人間だと足を組んでいる感じですかね。ボニーはシャッターチャンスがわかってて、自分が格好良く見えるポーズを知ってるんですよ。
加藤 ユニークだなあ。ボニーちゃん、足が長いですね。あっ、しっぽの先が曲がっているんですね。
山口 いつも言ってるんです。お前は性格が曲がってるからしっぽも曲がってるんだよって(笑)。



家全体がキャットタワー



加藤 猫はずっと飼っていたんですね。
山口 ええ。母は昔から飼っていたみたいだし、私が子どもの頃から常に猫がいました。でも、以前は自由に外へ出していたので、みんな、ウイルス感染症にかかって死んでしまいました。だから、もう外に出すのはやめて、ボニーとエラは完全室内飼育です。
加藤 完全室内飼育にしてどうですか?
山口 そりゃあもう元気ですよ。この家は地下1階地上2階の3階建てで、階段が二つあるから家全体がキャットタワーと化していてやりたい放題。上を下への大騒ぎで、2匹で家じゅう走り回っています。
加藤 あっ、エラちゃん、今、自分で扉を開けて出て行きましたよ!
山口 エラはお客さんが苦手なんです。すごく器用で、お客さんが来ると自分でドアを開けて地下に逃げちゃう。うちの猫たち、引き出しを開けるのも上手なんです。朝起きたら、リビングもキッチンもありとあらゆる引き出しが開けられてて、中にしまっておいた「だしの素」が全部ばらまかれてたこともありました。
加藤 ふたりで共謀してやったのかもしれませんね。
山口 だから、引き出しに調味料を一切入れられないんです。でも、猫って頭がいいなと思うのは、私の着物には絶対に爪を立てないんです。私はテレビに出演するときは着物を着ることが多いので、部屋にかけておくことがあるのですが、それには手を出さない。
加藤 値段が高いってわかってるってこと?
山口 いえいえ、高いってわけじゃないんですが、これに手を出したら三味線屋に売られるぞっていうのがわかるんだと思います。

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作家

山口恵以子

1958年東京都生まれ。早稲田大学文学部卒。卒業後は会社員、派遣社員として働きながら、松竹シナリオ研究所に入学。脚本家を目指し、プロットライターとして活動。その後、丸の内新聞事業協同組合の社員食堂に勤務しながら小説を執筆し、2007年に『邪剣始末』(廣済堂文庫、2007年)でデビュー。13年『月下上海』(文藝春秋、2013年)で第20回松本清張賞を受賞。他に小説『小町殺し』(文春文庫、2015年)、『あしたの朝子』(実業之日本社、2015年)、『食堂のおばちゃん』(角川春樹事務所、2015年)、『風待心中』(PHP研究所、2016年)、エッセイ集『おばちゃん街道 小説は夫、お酒はカレシ』(清流出版、2015年)など。

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動物ライター

加藤由子

動物ライター、エッセイスト。「ヒトと動物の関係学会」監事。1949年生まれ。日本女子大学卒。大学では生物学(動物行動学)を専攻。移動動物園などを経てフリーライターになる。動物、特にネコの生態や行動学に精通し、ネコに関する書籍などを多数執筆している。ネコ関連の著書に、『雨の日のネコはとことん眠い』『ぬき足、さし足、にゃんこ足』(共にPHP研究所)、『ネコを長生きさせる50の秘訣』(サイエンス・アイ新書)、『猫の気持ちを聞いてごらん』(幻冬舎文庫)、『猫式生活のすゝめ』(誠文堂新光社)、『猫とさいごの日まで幸せにくらす本』(大泉書店)、『猫の気持ちは見た目で9割わかる!』(大和書房)ほか多数。

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