連載コラム

2016/11/8FREE

第7回 ストーリーを語り、つながりを作る

団地の高齢化に立ち向かうコミュニティ・オーガナイジング

ハーバード流!草の根リーダーの育て方

鎌田華乃子

 日本社会の大きな問題である高齢化。その問題に地域住民とコミュニティ・オーガナイジング(CO)の実践を通じて取り組んだ事例を今回ご紹介します。

 実践者の中心的リーダーは社会福祉法人「生活クラブ風の村いなげ」施設長の島田朋子さん。島田さんは主婦であり母でしたが、幸せな時間のなかにも「何か物足りなさ」を感じ、自分の足で歩いていないような感覚で過ごしていらっしゃいました。「生活クラブ」に出会い、組合員活動を通して「空いている時間を誰かのために使いませんか?」と誘われ、ケアの世界に足を踏み入れたのをきっかけに、介護福祉士、ケアマネジャー、社会福祉士などの資格を取得し現在に至っています。風の村いなげは、千葉市稲毛区のUR団地の一区画を拠点に、介護保険事業、サービス付き高齢者向け住宅、診療所、放課後等デイサービスを行っています。



 実践に伴走をしたのはコミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ)理事の小田川華子。社会福祉、地域でのコミュニティ・オーガナイジングの実践経験を生かして、島田さんとそのチームに寄り添って約1年間伴走をしました。

 島田さんたちがオーガナイジングしようと決めた場所は千葉市稲毛区のC団地。最寄りの稲毛駅から徒歩18分のところにある5階建て7棟からなる分譲マンションです。風の村いなげからは徒歩4分。1980年の建設当初から住んでいる住民の多くが今は60代になりました。2015年現在、人口560人余り、高齢化率40%弱、独居40人(うち独居高齢者24人)。団塊の世代が多く、身体が弱ってきたときのことが心配されています。



 なぜ島田さんたちはC団地をオーガナイジングしようと思ったのでしょうか?
「私たちは日常業務のなかで地域コミュニティから取り残されている高齢者などの方々と出会ってきました。それは決して他人事ではなく誰にでも起こり得ることだと感じています。大切なことは、元気なうちから顔見知りの関係をつくり、互助の関係を生み出すことです。私たちの施設の周りには築30年を超える集合住宅が点在しています。住民の多くは団塊の世代であり、あと5年もすると後期高齢者となるため、今のうちに隣近所の助け合いの仕組みを作り上げたいという思いをもった方も少なくありません。C団地もその一つで、毎年交代する自治会役員だけでは今後に備えることは難しいという危機感をもった5人の住民有志が『高齢者対策委員会』を立ち上げ、独自の活動を行っていましたが、地域住民への理解は思うように進んでいませんでした。背景には、住民のほとんどが『まだ身体も利くから大丈夫』と思っているために、危機感をもって受けとめられにくい状況があるようです。また、活動の趣旨が住民に伝わっていなかったことに加え、住民が先々の問題を自分に置き換えて考える機会がありませんでした。
 一方、私たち「生活クラブ風の村」では、介護保険制度や障がい福祉サービスなどを行っているなかで、制度でカバーできる限界が見えていました。そこで私たちは、目の前の人を支えきるために『安心システム』の実践を方針に掲げ、地域住民に向けた無料の買い物バスと無料のサロンを実施することを決めていました。しかしながら、私たちは福祉の仕事をしているにもかかわらず、地域住民が日常生活を継続していく上での本当の困り事と向き合えていないのではないか、本当に困っている方と巡り会えていないのではないか、というジレンマを抱えていました。
 そのような時に私たちは、地域の高齢化に向けた活動を進めていたC団地高齢者対策委員会の方々と知り合い、協働することで地域の方々の本当の困りごとと向き合い、何かしら役に立てるのではないかと考えました」

 そこで、島田さんは風の村いなげの職員8人でコミュニティ・オーガナイジング実践チーム「安心タイガース」を結成し、コミュニティ・オーガナイジングにチャレンジしていくことにしたのです。

地域住民へのヒアリング



 小田川からの助言で、安心タイガースのメンバーは「なぜ自分たちが地域での生活を支える仕組み作りを支援するのかを明確にするため、各自が地域住民4人にヒアリングすること」に取り組みました。一方で各自が「なぜこの活動をするのか?」と自分自身の動機を問い直す必要もありましたが、その答えはヒアリングを実行するプロセスのなかで次第に明確になっていったそうです。ヒアリングはC団地高齢者対策委員会の方々を中心に行いました。ヒアリングを通して安心タイガースのメンバーは「誰かの役に立ちたい。困っている人の力になりたい」という気持ちをもっていったことに気づかされたそうです。また住民の方々の抱える問題も見えてきました。自治会役員が輪番制のため事なかれ主義になってしまっており、年間行事を無事に終えることに終始し、高齢化や孤立化にともなう生活課題に目を向けないことに地域の困りごとも、困っている人も見えてこないことなどが分かってきました。

どんなオーガナイジング・プロジェクトに取り組むか



 そして住民にヒアリングして得た結果をもとに、どんなコミュニティ・オーガナイジングに取り組んでいくか、「戦略」を考えていきます。C団地の住民が抱えている課題やその理由を検討し、具体的なゴール設定をして、どのようなアプローチをすべきなのか、ということについて考えます。

 その結果、「困った時に互いに近所で助け合える環境をつくり、ここで最後まで暮らしていけそうだという目処がつけられるような状態」を成し遂げるために、C団地の住民と共に立ち上がり、地域の方との個別ミーティングや集会所での会合、職員が動きやすい環境を整えることなどで、16年3月までに、「C団地で活動を主体的に考え、展開する住民グループ(ボランティアグループ)が立ち上がり、風の村いなげと共に地域の課題を見つけ、取り組んでいく基盤ができている状態」を達成する、というプロジェクトを目指すことになりました。

地域の課題と向き合う困難



介護の専門家である島田さんたちがCOを実践する上で最も難しかったことは「介護サービスなど日常の業務を抱えながらオーガナイジングを行っている自分たちに一体何ができるのか」という不安を乗り越えることでした。

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特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン代表理事

鎌田華乃子

1978年、神奈川県横浜市生まれ。日本大学生物資源科学部農芸化学科卒業。卒業後、外資系商社で化学品の輸出入などの仕事に従事。その後、外資系環境コンサルティング会社に転職。2011年に退職して、12年までハーバード・ケネディスクールに留学。主に民主主義、市民参加、リーダーシップを学び、行政学修士課程を修了。ケネディスクール卒業後は、ニューヨークのNPOにて、市民参加の様々な形を現場で実践。14年1月、日本でコミュニティ・オーガナイジング・ジャパンを設立。日本全国でワークショップを通じてコミュニティ・オーガナイジングを教え、実践者をコーチングし寄り添う活動を行っている。

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