連載コラム

2017/7/11FREE

普天間基地移転問題の解決は「代替地でなく運用変更で」

第4回

新しい外交を切り拓く

猿田佐世

 今年(2017年)7月、ワシントンで「今こそ辺野古に代わる選択を――新外交イニシアティブ(ND)からの提言」を発表する。私が事務局長を務めるシンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」の普天間基地移設問題についての3年間の研究成果の発表である。
 NDでは13年より、外交・防衛の専門家らによる研究会を開催し、在沖米海兵隊の軍事的な役割や「抑止力」の実態について分析・研究を行ってきた。16年に入って正式に立ち上げた「辺野古オルタナティブ・プロジェクト」では、毎月のように研究会を開催し、提言のドラフトを手にワシントンでの聞き取り調査も行った。プロジェクトメンバーは、柳澤協二(元内閣官房副長官補)、屋良朝博(元沖縄タイムス論説委員)、半田滋(東京新聞論説兼編集委員)、佐道明広(中京大学総合政策学部教授)である。
 
 沖縄の名護市辺野古では徐々に基地建設工事が進められている。沖縄の人々は強く反対し続けており、沖縄県は、7月中旬を目処に工事の差し止め訴訟を提起するとしている。しかし、日本政府が現在の方針を変える様子はない。
 日米政府はこの問題については「辺野古が唯一の解決策」としている。今回の提言は、その一番の読み手を、アメリカの政府関係者、軍関係者、研究者など、アメリカの防衛・軍事の専門家に据えており、「辺野古が唯一の選択肢」という説明が軍事・安全保障の観点から見て正しいのか、他に方策はないのか、を問う試みである。

軍事的な視点からの提言の必要性



 なぜこのような軍事・防衛の視点に基づいた提言書を作ることにしたのか。
 私のモチベーションは、NDのワシントンでの米政府、米議会等に対するロビイングの経験に基づいている。NDは、従来の外交に反映されてこなかった声を外交に届けるため、政策提言を行い、国内はもとより、各国政府、議会、メディアなどへ直接働きかける「新しい外交」を推進するシンクタンクである(13年設立)。今回の報告書に代表されるような具体的提言活動を行い、アメリカ政府・議会関係者に提案するなどしている。
 沖縄を初めとする日本の国会議員や地方自治体等の訪米行動を企画・実施してきており、稲嶺進名護市長の訪米活動や、翁長雄志沖縄県知事に随行する沖縄訪米団の企画同行を担当してきた。
 
 ワシントンでロビイングを行うたびに様々なことを実感するが、そのうちの一つが、「ワシントンで基地問題を訴える場合には、軍事的観点から説明しなければならない」というものである。
 アメリカにおいて外交政策に関わる人々は、この問題をほぼ例外なく「中国や北朝鮮に対する抑止力」「米軍事戦略全体における在沖海兵隊の役割」といった軍事的観点から捉えている。
 沖縄の米軍基地は、多くの点からの問題をはらんでおり、環境や人権、平等や民主主義といった視点から基地建設反対を訴えることは極めて重要である。しかし、ワシントンの政策決定権者との会話においては、それのみでは話が進まない場面に頻繁にでくわす。「台頭する中国からはどのようにして安全を保つのか」「北朝鮮は?」といった質問により会話が遮られてしまう。
「あなたたちが反対する理由はわかった。それで、どうすればいいのか」というワシントンで繰り返し投げかけられる質問に回答を提示したい、そしてアメリカの政策決定権者を動かし、東京にインパクトを与えたい。これが、私自身が本報告書作りに関わることとなった動機である。
 

現状分析:沖縄に駐留しなくとも任務遂行が可能な在沖海兵隊



 プロジェクトチームは、まず、沖縄の海兵隊はどのような役割を担い、どのような運用がなされているのか、また、現在予定されている米軍再編を経て、どのような変化が予定されているのかという現状分析を行った。
 日米両政府の現在の計画においては、海兵隊の主力(第4海兵連隊・第12海兵連隊)はグアムやその他国外に移転すると予定されている。その移転の後、沖縄には、第3海兵遠征軍(3MEF)などの司令部機能と普天間の航空部隊を含む第31海兵遠征隊(31MEU)のみが残留することになっている。
 現在、31MEUは、米本土から6カ月の期間で交替配備され、東南アジア諸国を巡回しながらの人道支援・災害救援活動(Humanitarian Assistance/Disaster Relief:HA/DR)のための共同訓練を主任務としている。しかし、彼らは沖縄からの移動手段を持たず、遠く離れた長崎県佐世保の米軍基地に所在する米海軍の揚陸艦が沖縄まで来て、それに乗り込み、そこから東南アジア諸国に向かっている。
 31MEUは、現在の運用では沖縄に配備されている間も実は東南アジアを巡回しており、沖縄には訓練と休養のために滞在するにすぎず、その滞在期間は平均して1年の3分の1に満たない。
 これが米軍再編を踏まえた沖縄の海兵隊の運用の現状である。

 研究会は、この現状を分析し、31MEUの任務遂行に必要なのは、佐世保からやってくる揚陸艦とスムーズに合流して東南アジアなどの目的地に迅速に向かうことができる「運用」の確保であるとの議論となった。31MEUが、米本土やハワイ、グアム、あるいはオーストラリアにいたとしても、適切な輸送手段さえあれば支障は生じない。したがって、海兵隊の実際の運用からは、31MEUの駐留先は沖縄でなくてよいという結論が導き出された。
 
 海兵隊の運用実態は、日本ではあまりに知られていない。
「沖縄に基地を置き、紛争現場への迅速な展開を」という意見がある。しかし、31MEUは佐世保から来る揚陸艦を待って現場に向かっているのが現実である。
「抑止力の観点から、海兵隊は沖縄にいなければならない」との意見もある。しかし、米軍再編の後も沖縄に残るとされる実戦部隊の31MEUは、すでに一年の3分の1程度しか沖縄にいないのである。
 そもそも、沖縄に残る唯一の実戦部隊と予定される31MEUは約2000人にすぎない部隊であり、彼らのために辺野古に基地が建設されようとしている、という現実も日本ではあまりに知られていない。

条件整備:いかにすれば辺野古基地建設中止は可能になるか



 研究会では、これらの不合理な事実を確認した上で、31MEUの駐留先は沖縄外でよい、すなわち、辺野古基地建設の中止を前提に、それにより生じうる課題を一つ一つ他の方法で解決しようと試みた。

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新外交イニシアティブ事務局長

猿田佐世

1977年生まれ。早稲田大学法学部卒業。国際人道支援NGO活動などを経て、2002年に弁護士登録。08年、米コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。09年、ニューヨーク州弁護士登録。12年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。著書に『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社クリエイティブ、2016年)がある。

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