地田 そうでしょうね。ヴォズロジデニヤ島は、大本はソ連時代初期の監獄島でした。アラル海が干上がったことで、現在は島すべてが陸続きになっています。。1930年代からソ連がつくった大規模な細菌兵器の実験場が存在したのですが、当時から秘密都市で今なお公開はされていません。私は、実際に入った人の写真を見せてもらいましたが、今は完全に廃墟になっていますね。
宮内 地田先生は小アラル海のほうをかなり密に回られていますよね。
地田 そうですね。この地図にルートを書いてきたんですが、前回の17年9月には、カザフスタンのアラリスクを起点にして、車で小アラル海東岸を南北に往復した後、小アラル海をぐるっと一周し、その途中でかつての大アラル海にポツンとあるバルサケルメス自然保護区も観てきました。
宮内 これ今、サラッとお書きになりましたけど、とてつもなく長い距離です(笑)。
地田 1300キロ以上、という感じですかね。宮内さんはアラル海に入ってみましたか?
宮内 足だけ入りました。大アラル海のほうは、塩分濃度が海水の5倍、死海の5分の1ぐらいだと、フランス人の環境研究所の方が言っていたので、体が浮くかどうか実験したかったんですが、そのためには貴重品袋を外さなければいけなかったので、断念しました。
地田 私は大も小も入ってみましたし、大アラル海で泳いでもみましたよ(笑)。
宮内 おお、それはいい。
地田 あれはなかなか爽快な体験でしたね。やたらと浮くんです。浮いて、波もあるので、どんどん岸辺が遠ざかっていって怖かった記憶があります。それと印象的だったのは、砂浜から入っていくと、粘土みたいな感じで、ズブズブ埋まっていきませんでしたか?
宮内 埋まりました。なぜか水際で急に粘土質になるんです。で、足が嵌まってしまう。
地田 そうそう、嵌まる、嵌まる。
宮内 ものすごく透明度の高い海に見えるのに、進んでいくと突然、水底から泥が舞い上がって真っ白に濁って、自分が動けなくなるような……。
地田 多分いろんな成分が混ざっていると思いますが、表面に洗剤みたいなあぶくが浮いていませんでした?
宮内 ああ、浮いていた気がします。
地田 私は理系じゃないからよくわからないんですが、あれはプランクトンのアルテミアの卵にいろいろ水が混ざって、ああいう現象が起こるのかなと思っているんです。このあぶくを「農薬なんじゃないか」と心配する人もいたけど、「大丈夫、違う違う」と言って、ざぶざぶ海に入っていって(笑)。だって、ここまで来たら泳がないとなって思ったんですよ、あのときは。
「希望と絶望が共存する場所、アラル海に魅せられて(後編)」に続く。
『あとは野となれ大和撫子』
2017年、KADOKAWA刊。21世紀、中央アジアの架空の小国「アラルスタン」を舞台にした冒険小説。カリスマ的な人気を誇る大統領が突如、暗殺された。国内のイスラム過激派の台頭を恐れた政治家たちは国外へ逃亡。残されたのは、「後宮」という名の女子専用教育機関で英才教育を受けた乙女たちばかり。「仕方ない、私たちで国家やってみる?」――暗殺者、テロリスト、反政府組織との争いに加えて、虎視眈々と領土を狙う近隣国を向こうに回し、少女たちはアラルスタンを守り切れるのか?
クヴァス
酸汁。麦や果実、蜂蜜などでできた発酵飲料。
ロンリープラネット
世界的なシェアを誇るガイドブックシリーズ、またそれを刊行する出版社。
アルテミア
塩湖に生息する小型の甲殻類。別名ブラインシュリンプ。