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2017/1/13FREE

高校生の政治的活動への参加を萎縮させてはならない

18歳選挙権導入の陰で危惧される教育現場への介入

時事オピニオン

伊藤和子

 2015年6月の改正公職選挙法により、それまで20歳以上だった選挙権が18歳以上になった。選挙権が全国的に行使されたのは、16年7月10日の参議院議員選挙だったが、その前に自由民主党がホームページで実施した調査が、18歳以上の高校生の政治的活動を限定するものと非難され、閉鎖される事態にもなった。こうした動きに警告を鳴らすNPO法人ヒューマンライツ・ナウの事務局長をつとめる伊藤和子弁護士が、その問題点を指摘する。

政治的活動制約の動き



 2015年6月、選挙権年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げる改正公職選挙法が成立し、16年の参議院議員選挙から、18歳選挙権が実施された。世界的に見ても選挙権を有する年齢は18歳(18歳以下の国もある)が趨勢となっている中、日本の選挙権年齢が引き下げられたことは、ようやく世界標準になったものであり、歓迎したい。
 しかし、この18歳選挙権導入後に浮上したのが、高校生の学校外での「政治的活動」を制約する動きである。さらに、教師の政治的中立性に関する統制強化の動きも深刻となっている。 (※一般的には政治にかかわる活動全体を「政治活動」としているが、公職選挙法では「選挙運動」を除く行為を「政治活動」としているため、ここでは公職選挙法の政治活動と選挙運動を併せたものを「政治的活動」とする)
 

政治的活動の届出制導入を容認?



 そもそも文部省(当時)は、1969年の通達で、高校生の政治的活動は「望ましくない」とし、「制限・禁止する必要」もあるとの方針を決定・通知していた。
 2015年の改正公職選挙法を受けて、同年10月29日、文部科学省(文科省)は、通知「高等学校等における政治的教養の教育と高等学校等の生徒による政治的活動等について」を各都道府県教育委員会および各都道府県知事等あてに出した。文科省はこの通知で18歳以上の学生の政治的活動を限定的に認め、1969年の通達を廃止した。新しい通知では、「今回の法改正により、18歳以上の高等学校等の生徒は、有権者として選挙権を有し、また、選挙運動を行うことなどが認められることとなる」とされている。
 ただし、この通知は、「高等学校等の生徒による政治的活動等は、無制限に認められるものではなく、必要かつ合理的な範囲内で制約を受けるものと解される」としている。
 その後、文科省は16年1月29日に開催された、都道府県教育委員会の学生指導担当者らを対象にした会議において、上記の通知に関するQ&Aと題する書面を交付した。
 このQ&Aの中でも問題と思われるQ9と、それに対する答え(A)を取り上げてみたい。


 これは、放課後や休日等の学外での生徒の政治的活動について学校への届け出を必要とする「届出制」を採用することも認められると示唆するものである。
 文科省のこのQ&Aを受けて、現に、届出制の導入について検討した自治体も少なからず存在した。
 愛媛県では、県立高校すべてが16年度から校則を改定し、校外の政治的活動に参加する生徒に、学校への事前の届け出を義務化した。これに先立ち15年末に、愛媛県教育委員会は全県立高校に校則の変更例を記載した資料を配布し、各校の判断に委ねた。県教委は、校則変更の指示はしておらず、あくまで「参考資料」であり、変更の要否の判断は各校に任せることも伝えたというものの、変更した場合は県教委の担当課長あてに報告するよう要請したという。その結果、全高校が届出制を導入することとなった。
 多くの都道府県では、強い違和感や批判を背景に、16年の届出制の導入が見送られた。しかし、おおもととなる文科省のQ&Aは撤回されていないため、今後の動向は不透明である。
 

届出制は憲法などに違反



 このような届出制の導入は、日本国憲法や、日本が批准している子どもの権利条約などに違反する。これについて詳しく述べてみよう。
 まず何より、政治的活動の自由は、憲法21条1項によって保障される「表現の自由」にほかならない。高校生であっても国民である以上、表現活動を自由に行うことができるのが原則である。
 表現の自由の中でも、政治的表現の自由は民主主義社会において不可欠であり、重要性が非常に高い。さらに、18歳選挙権が認められるようになった以上、投票行動を行うにあたり、政治的表現に触れたり政治的活動に自ら参加したりすることは、最大限尊重されなければならない。よって仮に表現の自由が制約を受けるとしても、それは、正当な目的を達成するための必要最小限の規制でなければならないはずである。
 それでは、学校外で高校生が政治的活動に参加することについて規制をする正当な目的があると言えるのか? これに関しては極めて疑問であると言うほかない。
 文科省の15年10月の通知にも「違法なもの、暴力的なもの」「学業への支障などがあるもの」は制限されるべきと示唆されているに過ぎない。
 百歩譲って、規制する目的が正当だとしても、規制方法として事前届出制を採用することが適切かつ最小限度の制約と言えるだろうか。
 事前届出制が導入されれば、高校生は政治的活動に参加するために、予め自己の政治的思想を告白することを学校側に強要されることになる。どのような政治的活動に参加するかは高度なプライバシーというべきであり、その告白の強要は、明らかなプライバシー侵害、私生活への過度の侵害である。このような告白を強要されることには、高校生でなくとも大きな苦痛を感じることだろう。
 憲法19条の保障する思想・良心の自由は、自らの思想・良心の告白を要求されない「沈黙の自由」を保障しており、この「沈黙の自由」はいかなる場合にも?奪されてはならないとされている。届出制には、こうした自由への配慮があまりにも足りないと言わなければならない。
 また、高校生にとってみれば、政治的思想を学校に知られることで、自分の進路や教師の生徒に対する対応などに関して不利益を被るのではないかと不安を覚えることも考えられる。

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弁護士/国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長

伊藤和子

1994年に弁護士登録(東京弁護士会所属)。以後、女性・子どもの人権、冤罪事件、環境・公害訴訟など、人権問題に取り組む。2004年ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学。05年ジュネーブの国連人権機関でインターン、06年に「ヒューマンライツ・ナウ」の立ち上げにかかわる。12年「ミモザの森法律事務所」を設立。現在、UN Womenのアジア太平洋地域アドバイザーもつとめる。著書に「人権は国境を越えて」(13年、岩波ジュニア新書)(2017.1)

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