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2016/12/23FREE

トランプ政権誕生で日米関係をどう変えるのか 前編

猿田佐世×マーティン・ファクラー対談

時事オピニオン

猿田佐世/マーティン・ファクラー
構成・文/川喜田研

──先日、自身初の単著となる「新しい日米外交を切り拓く」(集英社クリエイティブ)を出版。長年、ワシントンを舞台にロビイング活動を続け、沖縄の米軍基地問題やTPP問題などに関して「日本のもう一つの声」をアメリカ政府や米議会関係者に届けてきた猿田佐世さんと、20年以上にわたり、アメリカ人の視点で日本の政治や社会をウォッチし続け、こちらも新刊『世界が認めた「普通でない国」日本』(祥伝社新書)が出版されたばかりのマーティン・ファクラーさん。ある意味、対照的とも言える立場の二人は、トランプ大統領誕生後のアメリカと今後の日米関係をどう見ているのか? 日米外交の新たな可能性を探るクロストーク。



大統領選挙が浮き彫りにした「アメリカ社会の深い分断」




──まずは、お二人に、今回のアメリカ大統領選挙の印象から聞きたいのですが。

ファクラー 今回、僕が最も強く感じたのは、アメリカ社会の深い分断ですね。選挙戦の最中から、アメリカには「トランプが絶対勝つ」と信じている人たちと「トランプ大統領なんてあり得ない」と考えている人たちがいて、まるで「二つのアメリカ」が闘っているような雰囲気でしたが、選挙が終わり、トランプが勝利した後も、この二つが再び融和し、一つのアメリカとしてまとまってゆくという雰囲気が全くない。

 むしろ、トランプの支持者たちは「やったー!」と大喜びし、トランプに反対する人たちは深く落ち込むという極端に感情的な反応が続いていて「価値観、世界観」で二つの国に分かれてしまったような感じがします。
 何しろ、トランプ政権への嫌悪感から「カリフォルニア独立論」までが、半分真面目に議論されるぐらいですからね……。これは、イギリスが国民投票でEU離脱を決めた、いわゆるBREXIT(ブレグジット)の後、EUへの残留を望むスコットランドで再び独立論が浮上しているのと基本的に同じ構造です。

 また、アメリカ国内でも民主党の強い地域の州や郡、市町村の中には、トランプが主張する「不法移民の追放」のような政策には従わないと既に宣言している地方自治体もあります。アメリカの場合、地方自治体の権限が大きいですし、特に警察は州や郡ごとに独立していますから、大統領の指示に従わないこともある。そうしたアメリカ社会の深い分断の中で、トランプ大統領が本当に国を一つにまとめられるのかが気になりますね。

 もう一つ、トランプ大統領で難しいのは、彼の「言葉」と「行動」が必ずしも一致しないという点です。選挙期間中は過激な発言を繰り返し、アウトサイダー的なイメージを強調していたトランプですが、固まり始めた新政権の閣僚人事を見ても、首席戦略官兼上級顧問に指名された保守系ニュースサイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」の会長、スティーブン・バノン……彼はまぁ、日本で言えば右翼系サイト「チャンネル桜」の代表みたいな感じですが、そのバノンを除けばアウトサイダー的な人物はほとんど選ばれていません。基本的な顔ぶれは「共和党内の保守派」と「元軍人」「財界人」です。

──ちなみに、トランプ大統領の誕生は、アメリカ人であるファクラーさんにとっても、驚きだったのですか?

ファクラー そうとも言えません。と言うのも、今話したような「アメリカ社会の分断」は、決して、今始まった話ではなくて、恐らく1994年(ビル・クリントン大統領時)の議会選挙の頃から始まっていると感じていたからです。その頃から共和党が変質して、以前よりも攻撃的になり、一方で「ティーパーティ−」と言われる保守的な動きが、結果的に今のトランプ政権誕生につながったとも言える。その意味ではアメリカの分断はもう20年以上も続いているのです。

 また、対立候補のヒラリー・クリントンはあまりにもインサイダー的なイメージが強く、有権者から、既得権益を持つ「エスタブリッシュメント側の人間」と見られていたし、メール問題やクリントン財団の資金の問題などで、弱点が目立ち過ぎたとも感じています。その意味で、今回の大統領選挙は「トランプが勝った」のか、それとも「クリントンが負けた」のか分からない(笑)。間違いなく言えるのは、これほど「双方の候補が嫌われていた」大統領選挙はこれまでなかったということでしょうね。



閣僚人事から浮かび上がる「トランプ政権の実体」




──一方、猿田さんは、アメリカ大統領選挙をどんな風に見ていたのでしょうか?

猿田 私は今回のアメリカ大統領選挙について、日本の反応に注目して見ていました。確かにトランプは選挙期間中、様々な暴言を繰り返し放ったわけですが、アメリカの国内政策に関するものは、正直、日本人は直接的な影響を受けないものが多い。当然と言えば当然ですが、日本、特に新聞やテレビなどの日本の主要メディアではトランプの外交に関する発言、特に日本に向けられた「米軍の駐留経費を全額負担せよ」との要求や「米軍撤退」、あるいは「日本の核武装を容認する発言」などを大きくクローズアップし、そこにすごく反応している人が多かったですよね。

 そうした中で、特に沖縄の米軍基地に反対する日本のリベラル層の中には「米軍の駐留経費を全額負担しなければ在日米軍を撤退させると訴えるトランプが大統領になったら、むしろ沖縄の基地問題は片付くんじゃないか」という一種の楽観論が生まれたり、大阪の橋下徹前市長みたいに「沖縄米軍基地反対派はトランプ氏を熱烈応援すべきだ。」と発言する人が出たり……ということがあって、米軍基地問題や、やはりトランプが反対を公言しているTPP問題で、結果的に物事がいい方向に変わるのでは……と期待した人もいたと思います。

 しかし、今、ファクラーさんがおっしゃったように、選挙後に見えてきたトランプ政権の閣僚人事を見ると、結局、既存の枠組みの中から保守派を単に選んでいるだけで、共和党のタカ派陣営で固めただけじゃないか、そうなると、中国へ軍事的な圧力を今後も掛け続ける中で日本にはその一部に加わって欲しい、即ち、日本に軍事的な貢献をさらに要求するということになるだけの可能性が高いように思います。

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新外交イニシアティブ事務局長

猿田佐世

1977年生まれ。早稲田大学法学部卒業。国際人道支援NGO活動などを経て、2002年に弁護士登録。08年、米コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。09年、ニューヨーク州弁護士登録。12年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。著書に『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社クリエイティブ、2016年)がある。

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ジャーナリスト

マーティン・ファクラー

1966年、アメリカのアイオワ州出身。ダートマス大学卒業後、東京大学大学院に留学。帰国後、イリノイ大学でジャーナリズムの修士号、カリフォルニア大学バークレー校で歴史学の修士号を取得。96年からブルームバーグ東京支局、AP通信社上海支局長、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局、ニューヨーク・タイムズ東京支局などを経て、2009年から15年までニューヨーク・タイムズ東京支局長を務めた。現在、一般社団法人日本再建イニシアティブの主任研究員兼ジャーナリスト。著書に『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』(双葉社、2016年)、『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』(双葉新書、2012年)がある。

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