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2016/12/23FREE

トランプ政権誕生で日米関係をどう変えるのか 後編

猿田佐世×マーティン・ファクラー対談

時事オピニオン

猿田佐世/マーティン・ファクラー
構成・文/川喜田研

──ここまでの話を簡単にまとめると、今回の大統領選挙であらわになったアメリカ社会の深刻な分断は、選挙後も全く解消されていないけれど、トランプ新大統領が発表した閣僚人事を見る限り、そこには「共和党のタカ派」「元軍人」と、国務長官に指名されたレックス・ティラーソン(エクソンモービル会長兼CEO)に代表されるような「財界人」ばかりで、首席戦略官兼上級顧問のスティーブン・バノンを除けば、いわゆるアウトサイダーは少ない。
 そして、その顔ぶれを見る限り、少なくとも安全保障政策については「タカ派色」が強くなりそうだ。その場合、日本に対してはアジア、太平洋地域での自衛隊の役割の拡大などを求めてくる可能性もあるが、それは「安倍首相のやりたいこと」とも部分的に一致するので、もしかすると、従来以上に「対米従属」が進むのではないか……と。

トランプ政権下で、日米外交をどう変える?




猿田 「アメリカの意図を利用しながら日本で自らが望む政策を進めていこう」というこの場合に「対米従属がより進む」という言い方がストレートに当てはまるかどうか分かりませんが、この機会を利用して日本が軍備拡張の方向に進む恐れは間違いなくあると思います。

 先ほども言いましたが、トランプ氏の大統領当選によって一瞬だけちょっとした「風」が吹いた。「日本がこのままアメリカについていくだけではマズいんじゃないか、安全保障も含めてより自立し、自分たちの頭で考えねばならないのではないか?」という空気は間違いなくあったと思います。希望を込めて言えば、まだその空気は完全になくなってはいない。

 ところが、民進党のような野党や、これまで「対米従属」を批判していた一部の新聞も含めたメディアも、その他いわゆるリベラル陣営も、その問いに対する対抗軸を示そうとする動きが弱い。皮肉な話ですが、例えば、新聞で具体的提案を堂々と行っているのは産経新聞ぐらい。産経新聞はアメリカ大統領選挙の翌日の一面で大きく「トランプ大統領で、いいじゃないか」とのタイトルと共に「アメリカがトランプなら、日本は自主防衛だ」と主張する記事を載せました。もっとも、その産経もあっという間に「現状維持」に論調が変わってしまいましたが(笑)。

 私が受ける取材でも「トランプ大統領になって日米外交はどうなりますか」という質問しかない。「どうしたい」がなければ、「どうなるか」といった懸念も何もないはずなのですが。特に、「今の外交はおかしい」と言う人たちが、何か、現状に代わり得る対案を出そうという国家的な議論がまるでない。外交の問題に限らず、非常に残念であり、かつ、変化の可能性がわずかでも存在するこの瞬間においてもったいないことだと思いますね。



ファクラー 僕はもう一つ、今後のアメリカの動きが非常に大事だと思います。というのも、やはり、トランプ政権は動きが読みづらい部分が多く、アメリカの態度が本当に従来通りになるのか、まだ分からないからです。表面的には従来とあまり変わっていないように見えても、これまで同盟国の利害もきちんと考える大国として行動していたアメリカが、「アメリカファースト」で自分のことしか考えないという行動原理に基づいて、日本の立場からすると、予想もできないようなことをする可能性はあるわけです。

 トランプ政権になってから、すぐに大きな変化がなくても、やがて、そういうズレが明らかになり始めて、「もう、アメリカは僕たちのことを考えてくれないから、自分たちで考えなきゃいけない……」と日本が気付いた時、当然、これまでと同じような対米従属を続けられない。そこで、大きなポイントになるのが、戦後、長い間「対米従属」というレールの上を走ってきた日本が、本当に自分たちで考えられるのか? 政治家だけでなく、国民自身が「この国の在り方」を真剣に考える風土が作られるのかという点です。

日本の政治を動かす「ワシントン拡声器」の存在




──そうした、日本という国の在り方や、日米関係の新しい形について、日本人が真剣に考え、開かれた議論をするためにも、自由な情報の流れや論点を整理するというメディアの役割が重要だと思いますが、ファクラーさんはかねてから日本における「報道の自由」が危機的な状況にあると警鐘を鳴らしていますし、猿田さんも新著『新しい日米外交を切り拓く』の中で、日米外交が多様性を欠く、非常に限られたチャンネルを通じて行われていることを指摘されていましたよね。

猿田 はい、私がワシントンに住んでいた時に驚いたのは、日本政治の多くがアメリカに影響を受けて決定されてゆく中で、ワシントンには日本の一面的な姿しか伝わっていないということでした。こうした「日米間で流通する情報のギャップ」を埋めるために始めた、アメリカ連邦議会へのロビイングなどを通じて、日本の「もう一つの声」をワシントンへと運ぶという取り組みが、その後に設立したシンクタンク、「新外交イニシアティブ」の現在の活動へとつながっているわけです。

 また、そうしたワシントンに対する働きかけを行うなかで気付いたのが、日本の官僚や政治家が一見「対米従属」という形でアメリカの言いなりになっているふりをしながら、実際には自分たちの言いたいことをアメリカ側、例えば、リチャード・アーミテージさんのような「知日派」とよばれる人々に言ってもらい、それを「アメリカの声」として日本に伝えることで、日本の政治への影響力を強めるという手法が頻繁に使われているということでした。

 私はこれを「ワシントン拡声器」と名付けたのですが、このワシントン拡声器が機能するためには、当然、アメリカの立場がすごく強いことが前提ですし、「狭く、限られたチャンネル」を通じて日本側で外交を独占している人たちとそのカウンターパートである「アメリカ」との間には利害の一致が必要であり、さらに言えば、ある程度の信頼関係も必要です。そうした利害の一致や信頼関係が失われてしまった場合に、今まで、日米関係を基盤に自分たちの地位を維持していた日本の中枢の人たちはどうするのか……と考えた時、もっと単純な国粋主義的な考えの方が、分かりやすくて良いという話になるかもしれない。

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新外交イニシアティブ事務局長

猿田佐世

1977年生まれ。早稲田大学法学部卒業。国際人道支援NGO活動などを経て、2002年に弁護士登録。08年、米コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。09年、ニューヨーク州弁護士登録。12年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。著書に『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社クリエイティブ、2016年)がある。

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ジャーナリスト

マーティン・ファクラー

1966年、アメリカのアイオワ州出身。ダートマス大学卒業後、東京大学大学院に留学。帰国後、イリノイ大学でジャーナリズムの修士号、カリフォルニア大学バークレー校で歴史学の修士号を取得。96年からブルームバーグ東京支局、AP通信社上海支局長、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局、ニューヨーク・タイムズ東京支局などを経て、2009年から15年までニューヨーク・タイムズ東京支局長を務めた。現在、一般社団法人日本再建イニシアティブの主任研究員兼ジャーナリスト。著書に『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』(双葉社、2016年)、『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』(双葉新書、2012年)がある。

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