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2017/2/17FREE

永続敗戦レジームからの脱却に向けて(2)

『新しい日米外交を切り拓く』刊行記念シンポジウム講演録

時事オピニオン

白井聡

そんなことだから世界の色んな所で憎まれているわけで、いい加減そのことに気づくべきです。
 それで、トランプ氏やその支持者集団について盛んに「怖いよ、やばいよ、野蛮だよ、暴力的だよ」と言われているわけですが、私から見ると、その暴力性なり野蛮性なりというものは、共和党のブッシュ・ジュニア政権が体現した野蛮性や暴力性と、「何が根本的に違うんですか?」と問いたくなるわけです。ハッキリ言って、何が違うんだかさっぱりわからない。せいぜい程度の差が少しあるくらいのものです。
 ブッシュ・ジュニア政権もあれだけのことをやりながら、一応、国際主義の仮面ぐらいは被っていたかもしれない。トランプ氏はその仮面も捨てましょうやということで、私から見ると、何ら本質的な違いはないと思うんです。現状はだいぶ前からそんなものに過ぎないわけで、「これは文明の危機だ」というようなことを言って嘆いている日本のリベラル知識人たちを見て、私は「ああ、この人たちは、アメリカが偉大でないと不安になる人たちなんだ」と思いましたね。ならば、彼らは心配する必要はないかもしれない、他ならぬトランプ氏が「アメリカをもう一度偉大な国にする」と言っているわけですから……(笑)。
 何が言いたいかというと、一般に「対米従属」と言ったとき、そこには軍事的な従属だったり、経済的な従属だったりと、いろんな側面があるわけですが、私はそういった実体的な従属とは別に、精神の面でもっと自由にならなきゃいけないんじゃないかと思うわけです。アメリカがずっと偉大でなきゃ困るというふうに思っている人は、知らず知らずに精神的な面で対米従属しているんじゃないかと。そういった意味でも、トランプ政権誕生は、対米自立の必然性を、確かに告げているということであります。
 先ほども触れたように、冷戦構造が終わったことによって、戦後の日米関係の基礎は根本的に変わりました。まだ冷戦構造があったときには、日本がアメリカにとってアジアにおけるNo.1パートナーであるという位置づけは揺るがなかったわけですが、当然、その地位も根本的に変わったわけです。ですから、アメリカとしては、かつてはいろいろ文句はあっても庇護したり、あるいは互恵的な関係を結んだりしていたわけですけれども、日米関係はそこからむしろ「収奪の構造」へと変わってきたわけです。
 このことについて、晩年の堤清二さんがコンパクトな形で要点を指摘しておられました。何と言っているかというと「アメリカはますます衰退を深める中で、そのツケを全部、日本に回してくるだろう。大変な時代になります」と。
 これは本当に簡にして要を得た表現だと思いますけれども、確かに大国が衰退し始めたときに、その流れを受け入れて「おとなしく衰退する国」なんてどこにあるでしょうか? 当然、一種のツケ回しというか、同盟国を犠牲にしてでも、自分の衰退をくい止めることをやるわけです。
 これを「大国アメリカの衰退」に当てはめて考えれば、対日関係の内実が、変わってくるのも当然のことだと思います。アメリカの国益の論理から考えれば「育ててやった子豚は、丸々とよく太ったから、おいしくいただこう」と、そういう段階に入ってくるわけです。
 当然のことながら、それに対して、日本の側は、どうしなきゃいけないか。それは大変怖いことだけれども、やはり、抵抗しなきゃいけないわけです。知恵を絞って抵抗しなければいけない。ところが、現実には、抵抗をしているとはとても見えないわけです。

「永続敗戦レジームからの脱却に向けて(3)」へ続く。

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政治学者、京都精華大学人文学部専任講師

白井聡

1977年東京生まれ。政治学者、思想史家。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位修得退学。博士(社会学)。主な著書に『戦後政治を終わらせる』(2016年、NHK出版新書)、『「戦後」の墓碑銘』(15年、金曜日)、『永続敗戦論』(13年、太田出版、第35回石橋湛山賞、第12回角川財団学芸賞)、『「物質」の蜂起をめざして』(10年、作品社)、『未完のレーニン』(07年、講談社選書メチエ)、共著に『属国民主主義論』(16年、東洋経済新報社)、『偽りの戦後日本』(15年、KADOKAWA)など。(2016.12)

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