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2017/6/26FREE

文在寅の韓国外交

国際協調と「コリア・ファースト」の狭間

時事オピニオン

浅羽祐樹

 韓国を揺るがした朴槿恵(パク・クネ)・前大統領のスキャンダルと罷免。混乱を経て2017年5月9日に行われた大統領選挙では、「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が選ばれ、盧武鉉(ノ・ムヒョン)時代(2003〜08年)から9年ぶりに左派政権が成立した。
 国内に広がった政治不信の払拭、北朝鮮の核・ミサイル開発への対応など喫緊の課題が、国民の期待を集める新政権に突きつけられている。中でも、アメリカ、中国、日本などとの関係をどのように築いていくのか、国外では期待よりも懸念が大きい。いよいよ今週開催される米韓首脳会談を前に、韓国外交のジレンマを解説する。



「統一・外交・安保」という順序



 文在寅政権が成立してから1カ月あまりが経った。支持率は8割前後と高く、大統領選挙における得票率の2倍である。それだけ朴槿恵大統領の弾劾・罷免によるリーダーシップの不在が深刻で、韓国民は機能する政府を求めているということである。
 そのためにはまず、内閣と大統領府の人事が滞りなく行われることが欠かせないが、国会で過半数を占める野党(自由韓国党、「国民の党」、「正しい政党」など)は対決姿勢を強めている。特に、外相の康京和(カン・ギョンファ)に対しては、「米中日露など4強との二国間外交の経験が皆無」などとして猛反発したが、文在寅大統領は任命を強行した。大統領と国会、与野党の間の「協治」という韓国政治における新しい実験は、早くも頓挫しそうである。
 そうでなくても文在寅政権は、「歪んだ」朴前大統領を放逐した自分たちこそが「政治を正した」という道徳志向が強い。まして、支持率が高いと、「自分たちだけが韓国民を代表している」という錯覚に陥りやすい。実際は、国内外で制約が大きく、政策裁量には自ずと限界がともなうが、そのことをどこまで「正しく」認識しているのかが焦点である。
 外相だけでなく、国防相や統一相、大統領直属の国家情報院長や国家安保室長の顔ぶれ、政府組織再編や職務分掌を見る限り、外交・安保政策は、首相が「統轄する(憲法86条2項)」はずの省庁ではなく大統領(府)が主管するという意向が鮮明である。2018年6月の統一地方選挙に合わせて国民投票が実施され、大統領の権限を弱める方向で憲法が改正される可能性が高まっているが、それまでは大統領制であることに変わりはなく、首相は「大統領を補佐(同上)」するにすぎない。「知日派」の李洛淵(イ・ナギョン)首相が(対日)外交を担うことはない。
 さらに、外交・安保政策は北朝鮮政策との関連で位置づけられていると言えるかもしれない。金大中(キム・デジュン)政権(1998〜2003年)の対北「太陽政策」の理論的支柱だった文正仁(ムン・ジョンイン)・延世大学教授が任命されたポストは、奇しくも、大統領「統一外交安保」特別補佐官である。「統一(北朝鮮)」が「外交安保」よりも先に来るのは盧武鉉政権も同じで、「左派」の最大の特徴である。

米韓同盟のクレジビリティ



 左右対立の軸は国や時代によって異なるが、韓国では北朝鮮やアメリカなど国際関係をめぐって形成されている。北朝鮮に対して強硬姿勢で米韓同盟を重視するのが右派である半面、対北宥和姿勢で対米自立を志向するのが左派である。
 左派政権の再来だと、米韓同盟が弛緩するのではないかという危惧は当然、右派はもちろん、アメリカ側にもある。確かに、前回の盧武鉉政権は、イラク戦争への派兵や米韓FTA(自由貿易協定)の締結を行ったとはいえ、第2回南北首脳会談の開催や、アメリカに対する戦時作戦統制権の返還要求、それに「バランサー」論の提唱で、「海洋勢力」の一員としての自覚が問われた。同じ左派でも、金大中政権は対北宥和のためにもアメリカ(や日本)との連携を前提にしたのとは大きな違いである。それに、その間、2001年にアメリカでクリントンからブッシュ(子)へと政権交代があり、米韓間の齟齬が一層際立つようになった。同じ時期に小泉純一郎首相が対北政策で独自性を発揮できたのは、ブッシュ大統領とケミストリー(相性)が合い、個人的な信頼関係を築いていたからである。
 文在寅大統領はこの6月末、トランプ大統領との米韓首脳会談に臨む。「環境アセスメント」や「国会批准」を理由にした迎撃ミサイルシステム「THAAD」配備の先延ばし、対北政策のすり合わせ、米韓FTAの「再交渉」の可能性など課題が山積だが、最大の争点は同盟国としての韓国のクレジビリティ(信頼性)である。
 一般に、同盟の要諦は、脅威認識の共有と相互のコミットメントにある。THAAD配備は本来、米韓双方がコミットメントを具体的に示したものだが、一方の当事者における政権交代という事情変更によって、一方的に留保されているというのが現状である。さらに、THAADはそもそも、深刻化する北朝鮮のミサイルの脅威から在韓米軍と韓国を防衛するためのものであるのに、中国(やロシア)が反発し露骨に干渉してくると、その第三国の懸念も韓国は今や公然とカウントしている。
 要は、同盟関係において「戦略的曖昧さ」は許されるのかが試されているということである。まして、相手はトランプである。好むと好まざるとにかかわらず、文在寅の韓国は「値踏み」され、「敵」か「味方」か、峻別されることになるだろう。

対北圧力の国際協調



 北朝鮮の核・ミサイルの脅威がいよいよアメリカにとっても深刻化すると、トランプ政権は原子力空母を日本海に展開するなど対北圧力を強めている。ソウルや東京だけでなく、グアム(アンダーセン空軍基地)やハワイ(太平洋軍司令部)がすでに北朝鮮のミサイルの射程圏内にあり、アメリカ西海岸に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)も実戦配備に近づいている。飛距離の延長だけでなく、北朝鮮はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)、移動式の発射台、固体燃料方式、コールドローンチロフテッド(高角度)軌道、同時発射にも相次いで成功することで、捕捉や迎撃が難しくなっている。

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新潟県立大学国際地域学部教授

浅羽祐樹

北韓大学院大学校(韓国)招聘教授。早稲田大学韓国学研究所招聘研究員。1976年大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒業、ソウル大学大学院博士課程修了(政治学)。専門は比較政治学・韓国政治、司法政治論。現代韓国朝鮮学会賞受賞。著書に『したたかな韓国 朴槿恵時代の戦略を探る』(2013年、NHK出版新書)、『韓国化する日本 日本化する韓国』(2015年、講談社)、『戦後日韓関係史』(共著、2017年、有斐閣)、『だまされないための「韓国」 あの国を理解する「困難」と「重み」』(共著、2017年、講談社)など。

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