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2017/6/28FREE

トランプ政権時代に求められるこれからの日米外交(3)

猿田佐世×中島京子対談

時事オピニオン

猿田佐世/中島京子

トランプ政権時代に求められるこれからの日米外交(2)からの続き

「従属」か「抵抗」かではなく「提案する外交」へ



猿田 外交に話を戻すと、トランプ政権誕生で何か提案しているのは、産経新聞しかないということを言ったんですけど、私が外交問題で一番たくさんロビイングをしてきた沖縄の基地の問題に関しても、あんまり「提案している人」っていないんですね。
 私はロビイングするという立場から、いつも現実的で効果的な「戦略」を考えているので、トランプさんの掲げる「アメリカ・ファースト」とか「米軍を強化したい」といったテーマにうまくフィットした形で、そこに沖縄の問題を押し込んでいけば、何か変化が出てくるかもしれないと考えるんですね。
 例えば、全体として予算は足りないのに、米軍を強化するとか言ってるんだったら、「ここ、無駄なんだから削減しましょうよ!」みたいな提案をしていくことが、一番、トランプさんに響くんだろうと考える。
 彼は日本がお金を全部払えないんだったら、撤退するぞということなわけです。で、日本はさっき申し上げたように、ほぼ4分の3のお金というのを払ってきていて、25%のみをアメリカが払っているという状態の中で、これ以上、日本が払えないならば、今ある基地の中から、25%分「不要な基地」をピックアップして、どうぞ、お帰りくださいみたいな、日本からそんな提案をしていけたら、非常に具体的になっていくんじゃないかなと思っているんですけど、どうでしょう。


中島 そうですね。こちらの要求だけ一所懸命言っても、向こうの人にとってもやりたいこととか、国益というのがあるわけだから、実現しない。だから、猿田さんは、このやり方ならアメリカの利益にもなるとか、そのアメリカの特定の議員が訴えている問題にフィットするとか、そういうところを見つけて、「おたくにもいいですぜ!」みたいに提案していくということを、具体的になさっているんですよね。
猿田 悲しいことに、アメリカ人って日本の政治とかに関心を持っていないから、どれだけメールを送っても、電話をかけても、普通は会ってもくれない。ですから、いろいろ戦略を立ててメールの文章に書くわけです。
 例えば「あなたはアメリカの議会で環境問題について、ずっとがんばってきた議員じゃないですか、そうやって、あなたが人生を懸けて、戦っている環境問題が、今、沖縄にもあって、アメリカの基地のせいで沖縄の自然環境が危機に瀕しているんですよ……」みたいなことをつらつら書いて、会ったときも、そこからアプローチするみたいなことをやり続ける。
 環境問題以外にも、例えば在日米軍の関係者によるレイプ事件があれば、アメリカの議会には、女性の権利の問題、軍の中でのレイプの件を扱っている女性の議員なんかもいますから、そういう人をターゲットにして沖縄の問題を訴える。
 保守派に働きかけるには、やっぱり予算の問題が一番良くて、トランプさんなんかもやっぱりそこだろうと思うんですが「アメリカは今、無駄なお金を使っている余裕ないでしょう。ここを削れば、だいぶ予算が削れますよ」とか、「今、沖縄に基地を置いていると、中国から近すぎて、中国のミサイルであっという間に沖縄の基地なんて壊滅しちゃうんだから、もっと遠くに離したほうがいいって、アメリカの著名な識者が言っていますよ」とか……。
 そうやって、アメリカのシンクタンク、例えばランド研究所みたいな「アメリカの利益」に繋がる「アメリカの声」なんかも使いながら声をかけていく。それでなんとか会ってもらえて、関心を持ってもらえたら、何か手紙を大統領に書いてくださいとか、次のステップにつないでいく。
中島 すごいなぁ……。
猿田 「“軍事”というものを何もわかってない奴が何言ってるんだ」と言う人もいると思います。でも、私たち、新外交イニシアティブでは、安全保障や海兵隊に詳しい専門家に集まっていただいて研究を行っているので、具体的で説得力のある提案をすることができると思っています。
 そもそも、トランプ大統領が「お金が払えないのなら、在日米軍は全部撤退!」とか言っているときに、わざわざもう一つ新しいものをつくるというのは、まったく真逆の方向です。そういうような交渉を日本政府がアメリカに対してしていけば、それこそがまさに「自主外交」だと思うわけなんですけれども。日本政府にそれをやる気概がなければ、がんばって、私たち、新外交イニシアティブがやり続けます(笑)。

市民運動を「政治」や「外交」に結び付ける



中島 あと、猿田さんのご本を読んで、すごくおもしろかったのは、これが市民の運動で、その市民の声を外交に生かすということをなさっていることなんですよね。
猿田 アメリカは、ものすごく市民運動が盛んで、それこそシリア攻撃反対だとか、イラク戦争反対ということで、何万人といった単位の人が集まるデモをあっという間にやっちゃうんですね。
 でも、そうやって市民の声として盛り上がるだけじゃなく、そうした声がちゃんと政策につながるための「過程」というか「社会の仕組み」みたいなものを持っている。私のいた国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチやアムネスティとか、いろんな団体やシンクタンクがあるのですが、そうやって市民の声を具体的に形にしたり、政府に届けたりという社会の中での役割分担ができていて、お金もそういった仕組みに回るようになっている。
 一方、日本の場合は、市民運動自体もアメリカほど活発ではないし、専門性というものを、なかなか持ちづらい部分もある。例えば沖縄の問題で言えば、あれだけの反対運動が起きて、翁長さんという人を知事に選びだしてもいるわけなんだけれど、じゃあ、海兵隊の展開や運用の実際を見て、ここに基地が要るのか、要らないのか。中国に対して、ここをどかしても大丈夫なのかどうかということを、専門的に分析をして、アメリカに対して提案がなされたことって、たぶん今までほとんどないんです。
 アメリカの議員に、「あなたはこの海兵隊、具体的にはどうしたらいいと考えているの?」って言われたときに答えられない。

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新外交イニシアティブ事務局長

猿田佐世

1977年生まれ。早稲田大学法学部卒業。国際人道支援NGO活動などを経て、2002年に弁護士登録。08年、米コロンビア大学ロースクールにて法学修士号取得。09年、ニューヨーク州弁護士登録。12年アメリカン大学国際関係学部にて国際政治・国際紛争解決学修士号取得。著書に『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社クリエイティブ、2016年)がある。

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作家

中島京子

1964年生まれ。女性誌編集者を経て、2003年、田山花袋の『蒲団』を下敷きにした小説『FUTON』でデビュー。10年、『小さいおうち』で直木賞を受賞。14年には同作が山田洋次監督により映画化された。同年、『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花賞を受賞。著書に『彼女に関する十二章』、『長いお別れ』、『かたづの!』ほか多数。

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