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2017/8/18FREE

国連人権理事会の特別報告者を正しく理解しよう

報告書の内容を精査して、寛容な対応を

時事オピニオン

伊藤和子
構成・文/村山加津枝

 今年(2017年)6月2日、国連人権理事会の「表現の自由」の特別報告者であるデイビッド・ケイ氏を上智大学が招聘、同大学と衆議院議員会館で講演が行われた。ケイ氏は昨年4月に来日して調査を行い、その報告書を今年5月に国連人権高等弁務官事務所のウェブサイトで公表した。これに対し、高市早苗総務大臣(当時)が内容の見直しを求めたことなどがマスコミで取り上げられ、注目度がアップ、物議を醸した。一般人には耳慣れないこの特別報告者とはどんな存在なのか? 衆議院議員会館での講演会を主催したヒューマンライツ・ナウの事務局長である伊藤和子弁護士に話を聞いた。


(写真提供/HRN)
 

注目を浴びた特別報告者の報告内容とは?



 ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、6月2日に、国連「表現の自由」の特別報告者であるカリフォルニア大学アーバイン校デイビッド・ケイ教授の講演会を開催しました。当日は予想以上の数の報道関係者や一般の方々も駆けつけ、席のご用意ができず、そのままお帰りになった方が多数いらっしゃいました。多くの方が興味を持ってくださったことに感謝しつつ、対応のまずさをお詫びしたいと思います。
 さて、ケイ氏は、15年12月に来日し調査を行う予定でしたが、直前に日本政府の要請で延期となりました。結局、翌16年4月12日に来日、ジャーナリストや報道関係団体、政府等からヒアリングを行い、同19日に、日本外国特派員協会で記者会見をしました。その際に発表した日本政府への主な勧告案は以下のような内容でした。
(1)メディアの独立性および市民の情報にアクセスする権利を保護するために早急に対策を取ること。(2)放送法第4条を廃止しメディア規制から手を引くこと。(3)重大な社会的関心事のメディア報道を萎縮させる効果を生んでいる「特定秘密保護法」を改正すること。(4)ヘイトスピーチに関しては、広範囲に適用できる差別禁止法を制定すること。(5)情報へのアクセスを制限しメディアの独立を妨害している「記者クラブ」制度を廃止すること。
 勧告ですからマイナス面ばかりになりますが、会見では、日本のインターネットにおける自由度や、政府がオンラインの内容を検閲していないことは非常に良い状況であり、モデル国の一つだとポジティブな発言もしています。
 その後、ケイ氏は報告書をまとめ、今年6月12日から国連欧州本部のあるジュネーブで行われた国連人権理事会(人権理 : UNHRC ; United Nations Human Rights Council)において、公式訪問調査に関する調査報告書を公表しました。
 人権理は、テーマごとに3月、6月、9月の年3回会合を持ち、様々な議論をしています。「表現の自由」の討議は毎年6月に行われており、ケイ氏の報告はこのタイミングになったというわけです。人権理のサイトには、公表された内容の全文がアップされています。

「特別報告者」とは?
 今回、ケイ氏の件が話題になって、初めて国連人権理事会や特別報告者という言葉を耳にしたという方も少なくないでしょう。そこで、特別報告者とはどのような存在なのかについてお話ししたいと思います。
 まず、国連広報センターのサイトでは、次のように紹介されています。



 これだけでは少し分かりにくいと思いますので、補足しましょう。
 まず、特別報告者になるには、人権に関する問題に知見を持つ人が個人で立候補します。書類審査や面接をしたのち推薦を受け、最終的には人権理が任命するという形になっています。つまり立候補は誰もができます。報酬はなく、任期は最高で6年で、任務は「国別」と「テーマ別」に大別されています。国別は、カンボジア、朝鮮民主主義人民共和国、スーダン、シリアなどを対象とし、テーマ別では、恣意(しい)的拘禁、信条の自由、現代的奴隷制、テロリズムと人権などのテーマがあります。
 特別報告者を召喚するのは当事国ですが、人権理のサイトには各報告者のメールアドレスが掲載されていて、個人やNGOが直接コンタクトを取り、調査を要請することができます。テーマ別の報告者はこうした要請をもとに精査し、1年間に3カ国前後の国に出かけ、調査をします。その結果を調査報告書としてまとめ人権理や国連総会に提出、公表したりします。
 ケイ氏も昨年は、日本以外にトルコとタジキスタンを調査しています。ここ数年で他にも複数の報告者が来日したことや、日本以外の調査についてはあまり報道されないこともあり、日本を狙い撃ちしているように曲解している人もいますが、それは誤解です。

報告者や報告書などに対する誤解と曲解



 特別報告者は、2017年7月現在78名いますが、残念なことに日本人は一人もいません。それが特別報告者に対する誤解を招く一因になっているのかもしれません。
 特別報告者は、あくまで、調査対象の国に対して、この点を改善すればもっと素晴らしい国になるとアドバイスしているのであって、その国や国民を貶めるために調査をしているわけではありません。報告に対する報酬はありませんから独立した公正な立場で調査ができます。勧告に拘束力はないので、無視したからといって罰則もありません。ここで問われるのは、勧告を受けた国や政府がそれをどう受け止めて行動するかです。
 一般企業であれば、コンサルティング料を支払って会社の問題点をあぶり出し、改善につとめることは普通に行われています。それを無料でしてくれるのですから、ラッキーと思うくらいの懐の深さを見せるのが、民主主義国の成熟した対応といえるでしょう。それなのに、反論や抗議をして騒ぎ立てれば、国際社会から日本がどう見えるかは自明です。
 また、17年6月2日、高市早苗総務相(当時)が記者会見で「民主党政権時代の2011年に無期限招待状なるものを発出しており」と発言したことから、「民主党がケイ氏を召喚した」と受け止めている人もいるようですが、これも間違いです。確かに民主党政権下で「standing invitation」を宣言しました。これは「どんな特別報告者が来ても受け入れます」ということです。

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弁護士/国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長

伊藤和子

1994年に弁護士登録(東京弁護士会所属)。以後、女性・子どもの人権、冤罪事件、環境・公害訴訟など、人権問題に取り組む。2004年ニューヨーク大学ロースクールに客員研究員として留学。05年ジュネーブの国連人権機関でインターン、06年に「ヒューマンライツ・ナウ」の立ち上げにかかわる。12年「ミモザの森法律事務所」を設立。著書に『人権は国境を越えて』(13年、岩波ジュニア新書)(2017.8)

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