時事オピニオン時事問題や社会現象、文化、スポーツまで現代の動きを各界の専門家が解説。

2017/7/7FREE

AV出演強要被害の根絶を!

モデル・アイドル契約で「聞いてない撮影」

時事オピニオン

藤原志帆子

 読者の皆さんは、アダルトビデオ(AV)やAV業界について、どれぐらいご存じだろうか? 現在、流通しているAV作品の圧倒的多数は男性向けであるため、女性の皆さんにとっては遠い存在かもしれない。
 近年、このAVに出演させられた、もしくは出演を迫られている若い女性・男性からの相談が、私たちの団体「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」に相次いでいる。その経緯を聞くと、リクルートの方法や出演契約の締結、さらには性行為を伴う撮影にいたるまで、普通に考えれば脅迫、強要、詐欺行為ともいえる事例が多い。
 しかしなぜか、AV制作の現場では犯罪性を問われない。多くの相談者が、例えば強引な勧誘や、虚偽のある求人広告を介し加害者と会い、その後違約金やペナルティーが発生するような契約書に署名をさせられ出演を余儀なくされているにもかかわらず、である。

被害者は「望んで」出演したのか?



 ライトハウスが受けたAV出演強要被害の相談によると、被害に遭う人たちの年齢は10代後半〜20代前半に集中している。社会経験がまだない人も多いし、恋愛経験や性経験は「これからの時」という人もいる。相談内容としては、学校や職場に知られ普通の生活が送れなくなった、撮影時の恐怖が思い出されて眠れない、被害後何年も精神科に通っている、など。相談を受けた後に、ご家族から「当人が自死した」という連絡をもらったケースもあった。
 AV業界全体で、望まない撮影をされる人たちがどれくらいの割合を占めるのか、残念ながら正確な数字はわからない。私たちの団体だけでも、2016年の1年間に100人の相談者から、望まないAV出演に関する相談を受けた。しかも相談件数は年々増加していて、ともすれば対応が追いつかないほどにまでなっている。
 それでもなお、中には「忘れたい」「自分が悪い」と誰にも相談せず、自分自身を責めている人も多く、私たちのような支援団体を見つけて相談をしてくる人は、ほんの一握りの被害者だと思われる。
 多くの相談者と出会う中で、AV出演強要被害の入り口は、AVという言葉が出てこないアルバイト情報やスカウトであることがわかった。相談者たちは、モデル事務所や芸能事務所と称するところからスカウトされたり、募集広告に「高収入」と書かれたモデルやキャバクラなどのアルバイト情報を見て自ら応募している。その後、プロダクション(AV出演者のマネージメント等を行う会社=AVプロダクション)に説得されて制作会社へ面接に行き、契約が決まったら撮影が計画される。
 相談者の中には、「アダルトビデオ」というのが具体的に何なのかわからなかった、という人も多い。撮影現場で性行為をすると初めて聞き、頭が真っ白になってしまった人もいる。一方で、AV出演強要被害を訴えた人への社会の一般的な反応は、「画面の中では楽しそうに笑っているじゃないか」「監禁されているわけではないし、どうして逃げなかったのか?」「なぜそもそも出演の契約書に署名したのか?」というのが大半だ。確かに私自身も相談を受け始めたときは懐疑的だった。
 しかし、その後も多くの相談者の話を聞くことで、巧妙な出演強要の仕組みがわかってきた。

割のいいバイトだったはずが……



 事例として、最初にA子さんのお話をしたい。専門学校に通うA子さんは、仕送りと奨学金では生活がギリギリのため、学業と両立できるアルバイトを探していた。検索で出てきたのはモデル事務所。イベントなどでモデルとして活動することで、一つの仕事につき3万円以上の収入を得られると書いてあった。
 連絡を取り、小さなマンションの一室で面接を受けた。「グラビアモデルやAV女優の仕事もあるけど、仕事は選べるからぜひ登録だけでもして」と説明された。目の前には「出演等承諾書」という紙が置かれた。撮影内容として、性的な行為も含むことが書かれていたが、事務所の人からは「こう書いてあるけど、仕事を選ぶのはあなただから安心して」と言われた。A子さんは不安に思い、「もう少し考えたい」と言ったが帰らせてもらえず、長時間におよぶ説得が始まった。そしてとうとう拘束に疲れ果て、契約はあとから無効にできるものと思い、契約書に署名をして帰った。署名後には上半身裸の写真も撮られた。
 その後、事務所から「君のデビューが決まった」と連絡が入り、撮影当日は朝7時に事務所のマネージャーが自宅まで車で迎えに来た。「一日中の撮影で疲れるから」と言われ、そのときは優しさを感じた。しかし車の中で台本を見せられ、性行為を撮影するAVだとわかった。そこでA子さんが「出ません」と言っても、「誰でもこんないい仕事をもらえるわけではない」「プロがメイクして、髪も整えて別人になるから誰にもばれない」と、聞く耳を持ってくれなかった。
 撮影直前まで、A子さんはマネージャーに「無理」だと伝えたが、他の撮影クルーにも囲まれ、「今からぁ? 今からだったら違約金がかかってくるよ」「やめたらどれだけ皆に迷惑がかかると思ってる?」と返された。撮影が中止になることはなかった。
 数カ月後に出演作品が発売された。「絶対にばれない」と聞いていたのに、すぐに噂になって実の兄に知られてしまった。いつか親や学校関係者にも知られてしまうのか、と怖くなって眠れなくなり、「どうにかできないか?」とネットで相談窓口を探していたときに、私たちのことを知ったという。
 その後、ライトハウスの紹介で弁護士が彼女の代理人となり、制作側との交渉が始まった。大変だったのは、契約書等の記録がなかったことだ。「誰かに見られたら驚かれるでしょう? 預かっておくよ」と事務所側に言われ、契約書のコピーを渡されなかった。撮影に関するLINEでの説得のやりとりも、「友人に仕事の会話がばれたらイヤだよね」と、事務所の人間に言われて消してしまっていた。
 契約書を取り寄せる交渉から始まり、時間はかかったものの、20歳未満の未成年時の契約だったので販売は停止された。彼女は今、日本司法支援センター 法テラス(一定の条件に当てはまる場合に、低料金で法律相談が受けられる)を使い、毎月のアルバイト代から弁護士費用を少しずつ払っている。しかし作品はすでに違法コピーされており、わずかではあるが個人のブログや動画配信サイトなどで今も流されている。

話がどんどん変わっていく



 次にBさんのお話をしたい。

イメージ

人身取引被害者サポートセンターライトハウス代表

藤原志帆子

1981年生まれ。98年にアメリカ合衆国のウィスコンシン州立大学に留学。在学中に人身取引問題について学び、卒業後は被害者支援団体ポラリスプロジェクト(本部・ワシントンD.C.)に勤務。2004年、日本事務所のNPO法人ポラリスプロジェクトジャパンを設立。14年からは団体名をライトハウスに改め、日本における人身取引被害の電話相談や救援、啓発や教育を目的とした講演活動等を行っている。

その他の時事オピニオンを読む

イメージ

2017/7/21FREE

外国人技能実習生を使い捨てにするな!

最低賃金以下で働く人々の実態
指宿昭一

イメージ

2017/7/14FREE

X JAPANが世界で評価される理由

そこから見える「世界から取り残される日本」という構造
津田直士