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2017/2/3FREE

第9惑星の存在! 重力波初検出! 地球型惑星発見!

渡部潤一国立天文台副台長が選ぶ2016年天文ビッグニュース

時事オピニオン

渡部潤一

 夜が長く、空気が澄んでいる冬は、1等星が多く見えることもあり、星の観察に適した季節だ。昨年、2016年、天文学の世界では、NASA(アメリカ航空宇宙局)が木星の衛星エウロパの表面で水分が噴出するのを3回観測したことから、エウロパに生物が存在する可能性が高まったと話題になった。これ以外にも大きなニュースがあったとするのは、国立天文台の渡部潤一副台長。それは第9惑星の存在の予測、重力波の初検出、地球型惑星「プロキシマb」の発見だ。タイトルに心躍るものの「難しそう」と尻込みする人にも理解できるよう、渡部副台長がやさしく分かりやすく、部分日食スーパームーンにも触れつつ、解説する。



第9惑星の存在の予測



 2016年、天文学の最初のビッグニュースは、カリフォルニア工科大学のコンスタンティン・バディジンとマイク・ブラウンが、アメリカの『アストロノミカル・ジャーナル』誌(16年1月20日号)で発表した、第9惑星の存在の予測でした。
 太陽系惑星が8個あるのは誰もがご存じだと思います。ちなみに国際天文学連合では、太陽系の惑星を次のように定義しています。
「太陽系の惑星(水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星)とは、太陽の周りを回り、十分大きな質量を持つので、自己重力が固体に働く他の種々の力を上回って重力平衡形状(ほとんど球状の形)を有し、自分の軌道の周囲から他の天体をきれいになくしてしまった天体」。
 以前、太陽系惑星とされていた冥王星は上記に当てはまらないため、国際天文学連合が2006年に惑星から準惑星に配置換えしました。
 太陽系外縁には、2003年に発見された太陽系外縁天体セドナの他にも、遠方を周回する奇妙な偏った軌道で太陽を公転する氷の天体が5個見つかっています。なかでもセドナは最遠クラスです。もしこの領域に大型の惑星(スーパーアース)が存在し、その重力の影響を受けているとすれば、これら5個の天体の奇妙とも言える偏った軌道が説明できます。
 そこで2人は、コンピューター・シミュレーションなどから、地球の10倍の質量をもち、海王星の20倍以上の外縁を1万年から2万年をかけて公転する第9惑星の存在を予測したというわけです。
 こうした重要な科学的実験結果の発表があると、天文学に限らず科学者であればすぐに追試を始めます。今回も各国の天文学研究グループが追試をしました。多くのグループが、当初は「そんなものないだろう」という思いで始めたものの、「存在の予測は理にかなっている」、つまり「ありそうだ」という結論を出すグループが結構な数にのぼり、本格的に探し始めました。
 

第9惑星を見つけるのはすばる望遠鏡



 現存する大型望遠鏡で、第9惑星を見つける能力がいちばん高いのが、国立天文台ハワイ観測所のすばる望遠鏡です。


 大きさでいえばアメリカアリゾナ州の大双眼望遠鏡やスペイン領ラ・パルマ島にあるカナリア大望遠鏡のようにもっと大きな望遠鏡があります。また、ハッブル宇宙望遠鏡のように地上約600キロ上空を周回しているものもあります。
 こうした望遠鏡は、いずれも高性能ながら、視野が狭く、ピンポイントの観察には適していますが、第9惑星のようにまだどこにあるか確定していない天体の探索には適しません。
 いっぽう、すばる望遠鏡は、トップ部分の主焦点(図表参照)に何トンもあるカメラを載せています。このような望遠鏡を作るには、全体の構造をがっちり作らなければならず多額の費用がかかります。日本では昔から広視野観測の伝統があったこともあり、多少費用がかさんでも、こうした望遠鏡を作ることができました。


 このように、どこにあるのか分からない天体を探すという能力が際だって高いすばる望遠鏡は、多くの研究者が使いたがるという状況にあります。第9惑星探査に関しては、国立天文台の吉田二美博士が参加する国際共同研究チームが結成され、すばる望遠鏡で探し始めています。高性能のすばる望遠鏡は研究チームの申し込みが多く、1年で半日しか使えないケースもあり、いつ発見できるかは不確定です。それでも、もしも第9惑星が見つかるとしたら、このすばる望遠鏡を使った結果でしかないと思います。

すでに2回検出された重力波



 自然科学という大きなくくりでは、重力波(GW ; Gravitational Wave)の初検出は2016年の大きなニュースでした。
 アメリカのカリフォルニア工科大学とマサチューセッツ工科大学を中心とする国際共同グループが、重力波望遠鏡「LIGO(ライゴ)」で重力波を捉えたとの発表があったのは16年2月11日(現地時間、以下同)でした。実際に重力波が捉えられたのは前年15年の9月14日で、この日付から「GW150914」と名付けられました。同年12月26日にも観測され(「GW151226」)、こちらは16年6月16日に発表がありました。
 重力波検出の論文には、大学や研究機関として日本で唯一、国立天文台の名前が出ています。これは、元々ヨーロッパの研究グループ「VIRGO(ヴァーゴ)」に在籍し、13年、国立天文台の公募で採用されたラファエレ・フラミニオが、現在、国立天文台の重力波プロジェクト推進室長をしているからで、非常にラッキーでした。
 重力波といえば、物理学者アインシュタインの名前がまず浮かびます。彼は、1915年相対性理論を提唱し、その研究から重力波の存在を予言しました。それからちょうど100年の時が過ぎ、重力波が直接検出されたことでも大きな話題になりました。
 物理学と聞いて、重力波は難しいと思う人がいるかもしれませんが、池に石を投げ入れたときできる波紋を思い浮かべてみてください。池の波紋は平面ですが、重力波は何かの原因があって起きた、空間の歪みの波です。
 重力波の波形の解析から、GW150914は、地球から約13億光年離れた36太陽質量(太陽の質量を1として比較した単位)のブラックホールと29太陽質量のブラックホールが徐々に距離を詰めてその後激突、その結果62太陽質量ほどの一つのブラックホールになるという一連の現象が原因と推測されています。

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国立天文台副台長

渡部潤一

1960年福島県生まれ。83年東京大学理学部天文学科卒業。東京大学東京天文台助手等を経て、現在、大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台 教授(2010年~)、副台長(12年~)。総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻教授。主な著書に、『ピクサーのなかまと学ぶはじめての科学1 宇宙のふしぎ』(監修、16年、KADOKAWA)『最新 惑星入門』(渡部好恵との共著、16年、朝日新書)、『なぜ?どうして?宇宙のふしぎNEWぎもんランキング』(監修、14年、学研教育出版)、『巨大彗星-アイソン彗星がやってくる』(13年、誠文堂新光社)など、多数。(2017.2)

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