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2017/2/10FREE

三島由紀夫――いまだ衰えぬ人気の秘密

舞台や映画で新しいファン層を獲得、海外でも人気が

時事オピニオン

松本徹

 2017年1月、一人の作家の肉声テープが発見され、新聞などで大きく取り上げられた。その作家とは、1970年11月25日に割腹自決を遂げた三島由紀夫(1925−70)である。当時は、衝撃的な死によって作品群までもが批判に晒されたものの、没後50年近い今も、その人気は高い。なかでも演劇の人気が高いとするのは、三島由紀夫文学館松本徹館長だ。たしかに、蜷川幸雄宮本亜門など著名な人気演出家らが三島作品を上演し、多くの観客を集めている。そこで、三島関連の著書も多い松本氏に、三島の魅力をインタビューした。

大きな衝撃を受けた三島の死



 私が文学に親しむようになったのは、中学3年生頃からで、戦後派文学の全盛期でした。そのなかに三島由紀夫がいたわけですが、必ずしも三島だけではなく、いろいろな作家の作品を乱読しました。
 その後、大阪の新聞社に就職しました。1970年11月25日は出社時間が遅く、正午を少し回った頃、社の前まで行ったところ、人垣ができていて、ニュース速報が貼り出されていたんです。当時は、重大ニュースがあると、大きな紙に墨書きして貼り出していました。第一報は「三島由紀夫、自衛隊に乱入」とあり、割腹自決したことは編集局に行ってから知りました。
 このニュースは私にとっても大変な衝撃でした。もしかしたら文学にはなんの意味もないのではないか、と思ったのです。三島は命とともに文学も投げ棄てたと受け取ったんですね。そればかりか、この人生さえも生きるのに値しないのではないか、とまで考え、暗澹たる気持ちになりました。
 その気持ちから抜け出そうと始めたのが、三島の全作品を一から読み直すことでした。その結果、幾冊も本を書くことになったのです。やがて若い仲間たちと研究書や事典を編纂、2005年には『三島由紀夫研究』(鼎書房)を創刊しました。
 08年からは山梨県の山中湖畔にある三島由紀夫文学館の館長をつとめるようになりました。初代館長は三島と親しかった文芸評論家の佐伯彰一さん(故人)で、体調を崩されたため私が引き継ぎました。当館の展示は、三島の基礎研究の核となる、主に幼少期の草稿類や創作ノートが中心で、東京オリンピックの取材ノートもあります。

没後45年に国際シンポジウム開催



 2015年は、没後45年だったこともあり、いろいろな行事が行われました。なかでも東京大学駒場キャンパス(11月14日、15日)と青山学院アスタジオ(11月22日)で開催された「国際三島由紀夫シンポジウム2015」は大規模なものでした。
 登壇者は、三島作品の翻訳を手がけたドナルド・キーンさんをはじめ、細江英公(写真家)、高橋睦郎(詩人)、竹本忠雄(思想家)、中村哲郎(演劇評論家)、平野啓一郎(小説家)、宮本亜門(演出家)と数えれば切りがありません。また、イルメラ・日地谷=キルシュネライト(ベルリン自由大学教授)をはじめ、フランスやアメリカ、韓国など、海外の三島研究者も集い、講演や討議を行いました。私は冒頭、基調講演として、三島が東西の古典を踏まえて創作していることを指摘、今後の研究の課題としてほしい旨、話しました。三島を深く知るには、古典からの理解が必要だと考えるからです。
 このシンポジウムからもわかるように、三島は現在ただ今も、世界各地で熱く問題にされているのです。
 私は、16年11月、『三島由紀夫の時代 芸術家11人との交錯』(水声社)を刊行しました。三島と深く関わった人々、川端康成、蓮田善明、武田泰淳、大岡昇平、福田恆存、澁澤龍彦、林房雄、橋川文三、江藤淳ら作家や評論家、歌舞伎役者の六世中村歌右衛門、細江英公との、親密であるとともに厳しい関わりを扱い、三島が生きた昭和の時代を多角的に考えてみようとしたのです。それはまた、三島の最期へ至る道筋を浮かび上がらせることになったと思います。
 同じ月、16歳でのデビュー作『花ざかりの森』の自筆原稿が見つかりました。なにしろ「三島由紀夫」のペンネームを使って発表した最初の作品ですから、大きな話題になりました。その作品の掲載誌「文藝文化」の中心的存在だった蓮田善明(ぜんめい)の遺族宅から見つかったため、改めて三島と善明との深い関わりあいを考えさせられました。

小説は今後も読み継がれるのか



 三島の小説の多くは、格調が高く、美しい文章でつづられています。それだけに、今の若い世代には難解かもしれませんね。大学の卒論で取り上げている人が減少していると聞きますから、徐々に古典化していくのでしょうが、致し方ありません。
 しかし、作品によっては、ラジオで取り上げられたり映画化されたりすると、新たに読みたいと思う人もいるようです。三島最後のエンターテインメント『命売ります』がそうです。2016年6月にNHKラジオで宇治田隆史による脚色で放送されると、文庫が売れました。
 今年(17年)5月には映画『美しい星』(監督 吉田大八、配給 ギャガ)が公開予定で、こちらも昨年から文庫が売り上げを伸ばしています。
 1961年4月にソ連はアメリカに先駆けて人間衛星「ボストーク1号」を打ち上げました。人が初めて乗ったので当時は人間衛星と呼ばれていました。62年10月にはキューバ危機が勃発し、ソ連が原子爆弾を落とすのではとおそれたアメリカでは、核シェルターが盛んに建造されました。そのような世界破滅の危機時代を背景として書かれただけに、大胆な脚色をしているとはいえ、いろいろ考えさせられることも多いはずです。
 こんなふうに、きっかけさえあれば、今日でも三島作品は読者の心を?(つか)むのです。
 そして、三島が小説やその行動で扱った問題は、今なお、我々にとって切実な問題であり、色褪せることはありません。たとえば、市ヶ谷で割腹することにより突き付けた、自衛隊の問題、憲法改正問題は、間違いなく、現在ただ今、日本の大きな課題となっています。
 

多彩な戯曲の数々



 三島は優れた戯曲もたくさん書いています。

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三島由紀夫文学館館長、作家

松本徹

1933年北海道生まれ。大阪市立大学文学部卒業。産経新聞社勤務後、近畿大学、武蔵野大学の教授を経て、現在に至る。主な著書に『三島由紀夫の生と死』(鼎書房、15年)、『天神への道 菅原道真』(試論社、14年)、『小栗往還記』(文藝春秋、07年)、『三島由紀夫 エロスの劇』(作品社、05年)、『三島由紀夫の最期』(文藝春秋、00年)ほか。『三島由紀夫研究』(鼎書房)最新号の第17号では、ボディビルによって肉体を改造、さまざまなスポーツにも挑戦した三島にとって、強靱な肉体を獲得したことが、後半生において大きな意味を持つようになったと思われることから「三島由紀夫とスポーツ」という特集を予定している。(2017.2)

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