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2017/5/10FREE

任天堂「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」の意図を読み解く

時事オピニオン

平林久和

 2017年3月、任天堂が長らくコードネーム“ニンテンドーNX”と呼ばれていた新ハード「ニンテンドースイッチ」を発売した。いま大きな動きを迎えるゲーム業界。相次ぐハード機器の発売に海外ファン(とりわけアジア市場)も熱い視線を送っている。今まで独自路線でガラパゴス状態だった任天堂がどんな攻めを見せるのか。ゲーム業界一の解説者といわれる平林久和氏が、ベールを脱いだ「ニンテンドースイッチ」と、それを受けての再び熱いゲーム業界の潮流を読み解く。

ニンテンドースイッチの意図とその意味



 2017年3月3日、「ニンテンドースイッチ」が発売された。任天堂が5年ぶりに発売する新世代ゲーム機である。このマシンはテレビに接続する据え置き型ゲームと、持ち運びができる携帯型ゲーム機の性能を兼ね備えている。ソフトは任天堂の人気ゲーム『ゼルダの伝説』の最新作が本体と同時発売された。今後は『スプラトゥーン』の最新作の発売も予定されている。いわゆるファミリー層のゲームファンたちは、これらソフトの発売を待ち望んでいる。
 発売日後、約2カ月が経ち、こうした基本情報が広まった感があるニンテンドースイッチだが、一般ビジネスマンがワクワクするようなストーリーはあまり語られていない。本稿ではゲームファンでなくても着目すべき、ニンテンドースイッチというハードの特徴について深掘り解説を試みることにする。
 ニンテンドースイッチを漢字一文字で表すとしたら、それは「意」だろう。このマシンには表面の情報からはわかりにくい「意図」や「意志」が込められている。それぞれの特徴には「意味」がある。その含意を一つ一つ明らかにしていきたい。

素手でゲームを操作するジェスチャー・インタフェース



 ニンテンドースイッチの最大の特徴は新型ゲーム機らしいグラフィックス性能でも、宣伝していた兼用機であることでもない。ジョイコン(Joy-Con)と名づけられた専用コントローラだ。このコントローラはプレイヤーのボタン入力信号を本体に送るだけではなく、センシングデバイス(センサー装置)の性格を帯びている。
 コントローラの側部には「モーションIRカメラ」が内蔵されている。IR(Infrared)は「赤外線」を意味する略語。すなわち、小型の赤外線カメラが付いている。このカメラは人間の目では見えない光を捉えて、モノの形や動きや距離を読み取っている。すると何ができるのか? たとえば、手のひらや指先を使ったジェスチャー・インタフェースが実現する。素手でゲームの操作ができると言い換えてもいい。1月に行われたプレス関係者向け発表会では、指をグー・チョキ・パーと動かすと、カメラがその像を認識する様子が紹介された。もちろん、ジャンケンポンだけではなく、この入力方法はアクションゲームのキャラクターを指で動かすなど、どんなゲームにでも応用できるのだ。


 いや、逆に今までになかった入力方法が、新しいゲームを生む可能性もある。本のページをめくる。楽器を弾く。絵を描く。指で何かをつかむ、つまむ、握る、つぶす、はじくなど。使い道はいろいろとありそうである。このカメラは手以外のどんな像でも写す。ちなみに、本体と同時発売されたソフト『1-2-Switch(ワン・ツー・スイッチ)』では、プレイヤーの「口の動き」を感知して、どれだけ速くハンバーガーを食べたかを競うミニゲームが収録されている。
 このように、「モーションIRカメラ」は既存のテレビゲームにインパクトを与え、またすでに実験的な製品もつくられはじめているわけだが、その真価は今流行の「モノ」と接続したときに現れてくるだろう。
 現在、アメリカを中心としたIT業界では「アウト・オブ・ボックス」 (out of the box)という考え方が注目されている。従来のハードウェア=箱、あるいは四角い画面の枠にしばられないサービス合戦がはじまっているのだ。昨年、アマゾンは「アマゾンダッシュボタン」(Amazon Dash Button)という商品を販売した。洗剤・飲料・洗面用具・調味料・トイレ用品など。日常的によく使う製品ごとに、このボタンは発売されている。このボタンが洗濯機や冷蔵庫のそばにあれば、欲しいときにワンプッシュで注文できる。同じくアマゾンはAIを搭載したスピーカー型音声コントロール端末、「アマゾンエコー」(Amazon Echo)を販売。昨年のクリスマスシーズンには、品切れになるほどの人気製品になった。スピーカーの形をした端末に、利用者がしてほしいことを話しかけると、音楽の再生やニュースの読み上げなどを自動的に行ってくれる。あらゆるモノとインターネットがつながるインターネット・オブ・シングス、昨今のIoTブームが示すように、今、デジタルなサービスと物理的なモノとの新しい組み合わせが続々と生まれている最中である。
 話をニンテンドースイッチに戻すと、ジョイコンに付いた「モーションIRカメラ」は、多様なモノを写すことができる。たとえば、キャラクターのフィギュアやプラモデル、レゴのようなブロック玩具などとゲームソフトを合体させた遊びをつくることができるのだ。もっと現実的な想像をすれば、カードゲームや地図の絵柄を読み取るコントローラというのは意外と早く訪れるかもしれない。「モーションIRカメラ」はゲーム機の使い方の幅を広げる。

触感を伝えるコントローラ



「モーションIRカメラ」と同時に、ジョイコンに備わったもう一つの画期的な技術は「HD振動」と呼ばれるものである。HDはhigh definitionの略。HD、すなわち高精細な信号によってジョイコンは振動する。
 今までのゲーム機でも、振動を伝えるコントローラはあった。それらは携帯電話のバイブレーターと同じで、小型モーターの回転によって振動を発生させていた。車が衝突したときに手元がブルッと震えるが、所詮その程度の演出にしか使われてこなかった。だが、ニンテンドースイッチのジョイコンが伝えるのは、まったくの別物だ。振動というよりは、何かを触っている感じがする。「HD振動」は人に触感を与えるのだ。

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ゲームアナリスト

平林久和

1962年生まれ。青山学院大学卒業。ゲーム専門誌編集者を経て91年独立、アナリストとして活躍。(株)インターラクト代表取締役。著書に『ゲームの大學』(共著、1996年、メディアファクトリー)、『ゲーム業界就職読本』(1998年、アスキー)、『ゲームの時事問題』(1999年、アスキー)などがある。

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