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2017/8/18FREE

東京五輪における「無償ボランティア」マインドコントロールを許すな

「ボランティア=無償=尊い」という思い込みの罠

時事オピニオン

本間龍

 2020年の東京オリンピック開催まで3年を切った。競技施設の建設や開催費用の問題ばかりが注目を集めているが、実際に東京でオリンピックを運営するにあたり考えなければならないのは、「誰が運営を支えるか」ということ。つまり、実際に働く人たち=「ボランティア」についてである。広告業界とメディアコントロールに詳しい本間龍氏は、オリンピックボランティアの在り方に注目し、警鐘を鳴らす。ボランティアはタダで働くのが当たり前なのか?

酷暑に開催されるオリンピック。必要なボランティアは9万人



 今年(2017年)も猛暑の夏が到来したが、もはや亜熱帯地域に変貌した酷暑の東京で、3年後の2020年にはオリンピックが開かれる。これまでその内情においては、新国立競技場をめぐる予算の暴騰や大会エンブレム盗作問題、招致時の裏金疑惑、そして開催費の肥大化等様々な問題に覆われてきた。

 特に招致時約7340億円としていた開催費は、その後2兆円、3兆円と膨張し国民から強い批判を浴びた末、5月末に、1兆3850億円(そのうち、組織委員会6000億円、東京都6000億円、国が1500億円を負担)という金額に落ち着いた。しかしこれとて1000億〜3000億円の予備費が別途必要であり、最終的にはさらに膨張することが予想される。

 そんな中で大会の資金源となるスポンサー企業集めだけは極めて順調で、6月末現在で43社(ゴールドパートナー15社、オフィシャルパートナー28社)が決定している。過去のオリンピックではほぼ10〜15社(サプライヤー除く)であり、史上最多になることは間違いない。このスポンサー集めは大会マーケティングを一手に担う電通が担当しており、すでに4000億円近い協賛金を集めたと思われる。筆者はその正確な金額と電通のマージン公開を東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委)に請求したが、企業間取引の守秘義務を理由に拒否された。

 予算の算定と分担が決まり資金集めが順調な中、次に組織委が直面するであろう最大級の課題が実際に大会を運営するボランティア集めである。組織委は16年12月に発表した「東京2020大会に向けたボランティア戦略」で、必要なボランティア数を大会ボランティア8万人、都市ボランティア(東京都が募集)1万人の合計9万人とした。大会ボランティアとは大会運営に直接関わるボランティアのことで、競技会場や選手村などの大会関係会場およびその周辺で活動する。観客サービスサポート、競技運営サポート、メディア対応サポートなどから通訳まで、14種類に分類されている。
 都市ボランティアとは、国内または外国人旅行者に多言語での観光案内を行ったり東京の魅力を紹介するボランティアで、主な活動場所は空港・駅、都内観光スポットなどだ。こちらの募集は都が行うが、組織委が募集する大会ボランティアと同様、全て無償(タダ)労働を前提に募集をかけようとしている。
 だが9万人という人数はあまりにも巨大で過去に例がないため、組織委は競技会場を有する自治体や全国自治体・地域(団体、交通事業者等)、企業(スポンサー企業)との連携など、あの手この手で動員を図ろうとしている。もちろん小・中・高校生の参加も計画されているが、中でも重きを置いているのが、体力があって酷暑にも耐えられそうな大学生の参加促進である。組織委は795の大学・短大と連携(2017年4月現在)し、大会日程と重なる前期試験の日程変更や、スポーツボランティアの講義を導入し、単位取得もできるように交渉している。さながら学徒動員のような様相である。

資金はあるのに、ボランティアはタダ働き?



 だがしかし、オリンピックボランティアとは「無償」で行わなければならない性質のものなのだろうか。1984年のロサンゼルス大会以降、スポンサー企業集めが解禁され、競技への注目度喚起のためプロ選手の参加も解禁された。それゆえ、基本理念であった「アマチュアスポーツの祭典」ではすでになくなっている。
 ロス以前のオリンピックは都市や国家が中心となって開催されるもので、開催予算の多くは開催地や国家の税金であり、その節約のために無償ボランティアは必要不可欠であった。オリンピックはアマチュアリズムを基本とした祭典であり、そこには利潤追求という目標はなかったからだ。だがロス以降はプロ化、企業参加、全世界へのテレビ放映権の販売等でオリンピックは極度に金満化した。
 そして次期東京オリンピックでは43社の参加企業から史上最大と言える4000億円以上の資金を集めている。つまり多くの企業はこの大会を収益確保の絶好の機会と位置づけているのであり、間を取り持つ電通は、すでに協賛金のマージンだけで数百億円の利益を上げているはずだ。こうして多くの企業や社員が多額の報酬を得ることが確実なのに、なぜボランティアは無償が前提なのか。

 大会が開催される7月24日から8月9日(パラリンピックは8月25日〜9月6日)の東京は間違いなく酷暑である。そんな中でボランティアの多くは屋外での観客整理や誘導に従事しなければならず、熱中症による健康被害が続出する危険性がある。にもかかわらず、現状の計画では組織委負担で保険をかけることすら想定していないのだ。多くの企業が巨額の利潤を受ける一方で、純粋な奉仕精神で参加する人々が無報酬で酷暑に倒れても全て自己責任……とは、労働搾取と言われても仕方ないのではないか。

 このような状況に警鐘を鳴らす意味で、私は6月1日に以下のようなツイートをした。

「再度言おう。全ての学生諸君は東京五輪のボランティア参加をやめましょう。なぜなら五輪はただの巨大商業イベントで、現在42社ものスポンサーから4000億円以上集めており、無償ボラなんて全く必要ないから。あなたがタダボラすれば、その汗と努力は全てJOCと電通の儲けになる。バカらしいよ」

 すると驚くべきことに、これが数日のうちに2万8000リツイートされたのだ。その多くが学生たちであり、この問題に関する関心の高さが窺えた。
 もちろん、リツイートの数が上昇するにつれ、疑問を呈するツイートも複数現れた。いわく、
「学生の純粋な気持ちを妨害するな」
「本人がやりたければ構わないではないか」
「ボランティアとは無償労働を指すのが当たり前ではないか」
 という内容のものだ。

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作家

本間龍

1962年、東京都生まれ。広告代理店博報堂で18年間営業を担当する。2006年退職後、在職中に発生した損金補てんにまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴、1年間の服役を通じて刑務所のシステムや司法行政に疑問を持つ。その体験を綴った『「懲役」を知っていますか?』(09年、学習研究社)を上梓。東京電力福島第一原発事故後は、『電通と原発報道』(12年、亜紀書房)、『原発プロパガンダ』(16年、岩波書店)などで原発と広告の関わりを追及。原発プロパガンダとメディアコントロールを研究している。最新刊は「電通 巨大利権」(17年9月、サイゾー)、「メディアに支配される憲法改正国民投票」(17年9月、岩波書店)。

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