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2017/8/18FREE

東京五輪における「無償ボランティア」マインドコントロールを許すな

「ボランティア=無償=尊い」という思い込みの罠

時事オピニオン

本間龍

学生がオリンピックという特殊な場で人の役に立ちたい、海外からの観光客をもてなしたいというその心意気は尊いし、私もそれを否定するつもりは全くない。しかし、その裏にJOC、組織委と電通だけが儲かる「搾取のシステム」があることを知っているのか。東京の灼熱の暑さの下で無給で働き、もし熱中症などで倒れても、全て自己責任扱いされてしまうことをわかっているのか、と返信した。中高生ならともかく、大学生にもなればそうした仕組みを知った上で行動して欲しいと思ったからだ。

世界では有償ボランティアもよくあること



 そもそも、ボランティアという言葉の語源は「志願する」「志願兵」「自主的な」という意味であり、そこに「無償」という意味は含まれていない。それがなぜか日本では「ボランティア=無償=尊い」という意識が非常に強く、関係者と話していても最初から「ボランティアはタダでしょ」という意識であることに辟易する。確かに行政などにとって、人件費を節約できるボランティアは打ち出の小槌のような存在だろう。さらに、ボランティアに参加する人々の間でも「ボランティアとは無償奉仕」という認識が非常に強く、それはまるでマインドコントロールのようである。だが、世界では有償ボランティアは当たり前だし、日本でも「海外青年協力隊」などは現地生活費や各種手当が発生する明白な有償ボランティアである。
 それなのに、周到な「五輪万歳」プロパガンダによって五輪は今もアマチュアの雰囲気を残した祭典のようにPRされている。だがその実体はもはやただの商業イベントであり、その運営は巨額のスポンサー料で賄われている。その中核を担う組織委、JOC、電通などの運営陣は全て超高額の有給スタッフたちであり、あまりの厚遇ぶりに、「オリンピック貴族」とも呼ばれる有り様である。
 繰り返すが「五輪ボランティアは無給」などという決まりは一切ない。これはボランティアを無給で働かせたい運営側が流す悪質なデマであって、多くの善良な人々は騙されているのだ。
 

組織委員会が考えるボランティア戦略とは?



 組織委は16年12月に、前掲の「東京2020大会に向けたボランティア戦略」を発表した。その応募資格について組織委のHPに以下の記述がある。

(1)2020年4月1日時点で満18歳以上の方
(2)ボランティア研修に参加可能な方
(3)日本国籍を有する方又は日本に滞在する資格を有する方
(4)10日以上活動できる方
(5)東京2020大会の成功に向けて、情熱を持って最後まで役割を全うできる方
(6)お互いを思いやる心を持ちチームとして活動したい方

 この応募資格の中にはいくつもの欺瞞が隠されている。(2)の研修は職種によって異なるが、オリンピックの前年くらいから始まり、研修自体は無料でも、そこに通う交通費は自己負担だ。(4)の10日以上というのも、勤労者にとってはかなりのハードルだ。そうなると主力は学生か勤労者以外のすでに退職した高齢者となる。しかし「東京2020大会に向けたボランティア戦略」には、小中高生の参加を促す施策はあるが、高齢者のものはない。酷暑の大会へのボランティア参加は高齢者には危険が大きいことがわかっているからだ。
 さらに(5)の「情熱を持って最後まで役割を全うできる方」という書き方も、ことさら責任感を強調していていやらしい。(6)「お互いを思いやる心を持ち……」と併せて、「言われたことには協力し、最後まで責任を持って全うせよ」という上から目線を感じさせる。
 その下心は、上述の「ボランティア戦略」に付随した文書「東京2020大会に向けたボランティア戦略について」における「東京2020大会においてボランティアが果たす役割」の中にある「・日本人の強みである『おもてなしの心』や『責任感』を活かして行動・自らの役割を心から楽しんで活動に参加し、大会全体の雰囲気の盛り上げ」という記述にも垣間見える。対価を一切支払わないくせにことさら責任感を強調し同調圧力を加えるとは、どこまで厚かましいのか。

 さらに驚くべき目論見がある。同文書の「戦略の主な内容」では、「関係自治体等との連携」として、「全国自治体・地域(団体、交通事業者等)との連携」「企業等との連携」などを挙げているが、その中に「ラグビーワールドカップ2019との連携」という項目が潜り込まされているのだ。    
 そこには「都市ボランティアの募集を平成 29年度に一部前倒して実施し、ラグビーワールドカップ2019での経験を大会に繋げる」とあるが、言うまでもなくラグビーワールドカップはオリンピックと何の関係もないスポーツ興行であり、会場整理や案内係は、ラグビーワールドカップの実行主体が独自雇用すべきものだ。それを無理やりオリンピックと結びつけ、本来アルバイトを雇用すべきところを無償ボランティアで代用しようと言うのだから恐れ入る。ちなみにこのラグビーワールドカップも電通の一社独占事業であり、オリンピックと併せての同社への露骨な利益誘導であると思われる。?

高度な能力、過酷な作業――正当な対価を全員に!



 実は、2016年7月に、組織委が大会ボランティアに求める要件の素案として、以下のような参加要件を示して、物議を醸していた。

「コミュニケーション能力がある」
「外国語が話せる」
「1日8時間、10日間以上できる」
「採用面接や3段階の研修を受けられる」
「競技の知識があるか、観戦経験がある」

 一見して高度な要求だったため、
「こんなハイスペックな人材をタダで使おうというのか?」
「通訳能力までタダで提供しろというのか?」
 などと組織委に批判が殺到した。そのときは「まだ素案の段階」として誤魔化したのだが、結局ほとんど何も変更せず、語学部分を曖昧にして、12月に成案として出してきたのだ。

 しかしその騒ぎの際、京都大学の西山教行教授は東京新聞への投稿(2016年7月21日付朝刊)で「通訳はボランティアが妥当との見解は外国語学習への無理解を示すばかりか、通訳や翻訳業の否定にも結びつきかねない」「街角での道案内ならさておき、五輪の管理運営業務に関わる翻訳や通訳をボランティアでまかなうことは、組織委員会が高度な外国語能力をまったく重視していないことの表れである」と痛烈に批判した。

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作家

本間龍

1962年、東京都生まれ。広告代理店博報堂で18年間営業を担当する。2006年退職後、在職中に発生した損金補てんにまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴、1年間の服役を通じて刑務所のシステムや司法行政に疑問を持つ。その体験を綴った『「懲役」を知っていますか?』(09年、学習研究社)を上梓。東京電力福島第一原発事故後は、『電通と原発報道』(12年、亜紀書房)、『原発プロパガンダ』(16年、岩波書店)などで原発と広告の関わりを追及。原発プロパガンダとメディアコントロールを研究している。最新刊は「電通 巨大利権」(17年9月、サイゾー)、「メディアに支配される憲法改正国民投票」(17年9月、岩波書店)。

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