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2017/8/11FREE

『けものフレンズ』現象を読み解く

アニメがそなえる「魔法のパワー」

時事オピニオン

氷川竜介

「すごーい!」「たーのしー!」などのゆるいセリフと魅力あふれるキャラクター、その一方でどこか不穏な気配も感じさせるストーリー展開が話題を呼び、2017年を代表するヒット作となったアニメ『けものフレンズ』。ヒットの秘訣は何だったのか? なぜ放送終了後もその熱量が持続し続けているのか? アニメ特撮研究家の氷川竜介氏が分析する。

「けもの」を媒介に拡大するヒット作



 深夜帯で2017年1月から3月まで放送されたTVアニメ『けものフレンズ』(全12話、テレビ東京ほか)の人気拡大が止まらない。動物を擬人化した美少女キャラ《フレンズ》を描く点では、特に珍しいものではない。近年、他にも動物テーマの児童向け作品が複数あった。だが、過去のどれとも違う新しいタイプのブームを起こして注目が集まっているのである。


 本編が2話ずつ収録された公式書籍『けものフレンズBD付オフィシャルガイドブック』の第3巻の帯には、「20万部突破の大ヒット!!!」と記されている。衰退するソフト販売ビジネスでテレビアニメは各巻3万本も出れば年間ベスト20に入るほどだから、各巻7万本級となれば破格の数字である。7月26日に発売された第5巻の帯ではファンの要望にこたえて第2期の制作決定も発表されている。
 放送終了からあまり間を置かず、他メディアで展開している点もすごい。6月には品川プリンスホテル クラブeXでミュージカル『舞台 「けものフレンズ」』が開催された。サーバル、フェネック、アライグマたちアニメ版の声優がキャラの姿で歌って踊ることで大人気となった(2018年1月に再演決定)。東武動物公園をはじめとする全国各地の動物園や、JRA(日本中央競馬会)などとのコラボ企画も、「現実のけもの」と深く関連づけた点で秀逸である。
 さらに人気を受けて、8月14日からはテレビ東京系で朝7時30分から連日再放送が決定。もともと子どもにも親しみやすくするという企画趣旨なので、美少女キャラものとはいえ健康的なイメージもあり、今後も年齢層を超えた拡がりが期待できそうだ。
 このように大きなブームを巻き起こしている同作だが、原作表記されている「けものフレンズプロジェクト」自体は、2014年からスタートしていた。ただし結果は必ずしも順風満帆とは行かず、アニメ放送もソーシャルゲームのサービス終了後という、遅く厳しい状況下の出発であった。それなのにアニメ人気がプロジェクト全体を再起動させたのだ。であれば、そこにはどういうアニメパワーが作用したのだろうか。「アニメーション」のそなえる「魔法のパワー」の介在について、映像表現の側面と、ストーリー展開の側面から分析してみたい。

「ゆるさ」を獲得した3DCG



 このアニメの制作スタイルは、かなり常道から外れたものであった。キャラクターは手描きではなくフル3DCGが採用され、表現としてはセルルックとなっている。フレンズのデザインはヒット作『ケロロ軍曹』の吉崎観音によるもので、耳や尾、牙など実際の動物の概観を反映したうえで、斑点や縞模様など特徴ある表皮をコスチューム化している。これを的確に表現するには、形の崩れにくいCGのほうが有利というわけだ。
 一方、背景は一般のアニメ同様、手描きの絵を平面的に配置する手法が中心だ。被写体となるフレンズの動きに連携してカメラが手前・奥方向に移動する演出でも、砂漠やジャングル、高山、河川など雄大な自然環境が多いため、ゆったりした空間表現になっている。
 現在の深夜アニメの多くは、ひたすらデータ量を増やす方向性をとっている。より正確に、より複雑に、より緻密に、より自然に……という手段で画面の「求心力」に相当する「クオリティ」を高めようとしているのだ。ところが『けものフレンズ』は、まったく逆方向の制作姿勢をとっている。
 3DCGでキャラクターのモデルを制作した場合、360度どの方向から見ても破綻なくすることは難しい。動きの途中でおかしな顔に見えるコマが出たり、ポーズによって髪の毛が衣服にめり込んだりするので、手描きの修正が必要になる。だが、本作ではそうした調整を最小限度にして、むしろ全体に「ゆるい感じ」でクオリティを低く均質化している。その「ゆるさ」自体を作品の「主張」「世界観」と受け止められる「表現」にまで極めた逆張りの姿勢が、ヒットを底支えしているのではないだろうか。
 アニメーション制作を担当するのは、かつて『てさぐれ! 部活もの』(13年)というTVシリーズを手がけて話題を呼んだ、たつき監督とヤオヨロズである。これは『gdgd妖精s(ぐだぐだフェアリーズ)』(11年)の流れをくむ3DCGアニメである。これらの作品は声優のフリートークを先に収録し、それに3DCGでキャラの演技をつけるプレスコ(プレスコアリング)パートが売りであった。絵づくりが先行するアニメでは、演者自身のもつ生理、それを反映した「間」、掛け合いのもつ「呼吸」が表現しづらくなる。むしろそれを活用して「ナマっぽさ」を重視したのだった。
『けものフレンズ』でも、声優の芝居が優先されている。その心地よい響きが「ゆるさ」と化合することで、他にはないリアリティとアメニティが同時に生じている。
 こうした、視聴者をもてなす「居心地の良さ」を醸しだす空気感が、知的な好奇心を触発する余白を生む。
 本作では、「動物をモチーフにしたフレンズたち」の多種多様な生態を観察したときに触発される感覚が、大きな魅力となっている。もともと地球は人間の住む地域だけではなく、ましてや都会とは異なる自然のほうが環境の大半を占めている。人間にすれば過酷な場所に見えても、動物たちはうまく適応して棲み分けている。作品の舞台となる架空の超大型総合動物園「ジャパリパーク」は、その「うまくやってる感じ」を圧縮して見せてくれるものなのだ。便利なはずの人間社会で「うまくいかないこと」にストレスを抱えるわれわれにとって、この「フレンズたちのユートピア感」の発見は大きな価値であり、癒やしにもなるのではないだろうか。



知的好奇心を触発する多重構造



 全12話のストーリーとしては、最初から最後まで「かばんちゃん」と「サーバル」の友情の旅に絞りこんでいる。

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アニメ特撮研究家

氷川竜介

1958年生まれ。東京工業大学卒。日本SF作家クラブ会員。70年代後半から『機動戦士ガンダム』など数々の作品に関わる。文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員、毎日映画コンクールアニメーション映画賞選考委員を歴任。文化庁向けに「日本特撮に関する調査報告書」「日本アニメーションガイド ロボットアニメ編」を執筆。2014年度から明治大学大学院国際日本学研究科客員教授。近著に「細田守の世界」(祥伝社、2015年)がある。

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