酸化型の漂白剤では、ある物質がシミを落とすために大きな役割を果たしています。それは生活習慣病や老化の元凶と悪名高い「活性酸素種」です。これは私たちが酸素を取り入れてエネルギーに変えるとき必ず発生する物質です。活性酸素種は、体内に侵入してきた細菌や病原菌をやっつけてくれる、ありがたい存在でもありますが、余分に残っていたりすると、攻撃する必要のない細胞までも傷めつけてしまいます。だから、老化やがんなどの原因になってしまうのです。このように、エネルギー状態が高く、まわりを巻き込んで激しく化学反応しやすい物質が、酸化型漂白剤の働きの正体なのです。
さて、ここから酸化型漂白剤をさらに詳しく見ていきましょう。酸化型漂白剤は「塩素系」と「酸素系」に分類することができます。塩素系には、「次亜塩素酸ナトリウム」、酸素系では、「過炭酸ナトリウム」と「過酸化水素」があります。3つとも成分も特徴も違いますが、どれも「活性酸素種」です。
この中で最も漂白パワーが大きいのが、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)です。これは水の中で、「次亜塩素酸(HClO)」という活性酸素種の物質ができます。しかし、この活性酸素の力はとても大きいため、とって欲しいシミだけでなく、どんな色でも脱色してしまうため、色柄の衣類への使用は厳禁です。しかし、そのパワーのおかげで除菌やにおいの元も分解することができるため、浄水やプールの殺菌にも使われているのも、次亜塩素酸ナトリウムなのです。
ところで、トイレ用洗剤などに「混ぜるな危険」と書かれているのを見たことがありませんか? これは、「酸性のものと混ぜてはいけない」ということです。次亜塩素酸ナトリウムは「酸」と出合うとたちまち塩素を発生します。化学式では、NaClO(次亜塩素酸ナトリウム)+2HCl(塩酸)→NaCl(塩化ナトリウム)+H2O(水)+Cl2(塩素ガス)と表します。有毒な塩素ガス(Cl2)が発生し、死亡事故をも引き起こす危険な化学反応なのです。最近「ナチュラルクリーニング」といってクエン酸やお酢での掃除が流行っていますが、これらも「立派な酸」であり、化学物質ですから、絶対に混ぜないでください。
このように、塩素系漂白剤は色柄ものにも使えないし、事故にも気をつけなくてはいけない……と悩む方のために、もう少し使い勝手のよい漂白剤があります。それは、粉末の酸素系漂白剤の成分である「過炭酸ナトリウム」です。これは水の中で「炭酸ナトリウム」と「過酸化水素」へと変化し、化学式では、Na2CH2O6(過炭酸ナトリウム)+2H2O(水)→Na2CO3(炭酸ナトリウム)+H202(過酸化水素)と表します。この過酸化水素(H202)は、次亜塩素酸に比べて作用の穏やかな活性酸素であるため、色や柄のある衣類でも大丈夫。「カラー●●」とか「ワイド××」などという商品名で売られているのがこの漂白剤です。ちなみに、過酸化水素の水溶液はオキシドールと呼ばれていて、活性酸素が傷口に白血球を動員させて、細菌の侵入を防いだり、殺菌してくれたりします。
ここで、「オキシドールそのものが漂白剤にならないの?」と疑問に思いませんか? 正解です。オキシドールも立派な漂白剤で、「手間なし××」という商品名で売られています。わざわざ水に溶かさなくとも、最初から活性酸素種である「過酸化水素」を直接シミにつけることができるから「手間なし」というわけです。ただ、粉末の過炭酸ナトリウムよりは、若干、漂白効果は落ちることは確かです。しかし、過炭酸ナトリウムより便利な点があります。それは、毛や絹などの素材でも使用できること。過炭酸ナトリウムは水に溶かすと弱アルカリ性を示しますが、たんぱく質はアルカリに弱い性質を持っているため、たんぱく質を成分とする毛や絹を傷めてしまいます。一方、過酸化水素の水溶液は弱酸性です。酸性は、たんぱく質を傷めることがないので、羊毛や絹の素材でも使用することができるのです。
このように漂白剤といっても、化学構造が異なり、それぞれ長所や短所があることが分かります。科学的に理解すれば、漂白剤をうまく使い分ける自信がわいてきませんか?