内戦が続く「中央アフリカ共和国」は世界で最も危険な国の一つだ。
人口わずか480万人の小国であるにもかかわらず、武装勢力に誘拐されて囚われている子どもたちの数は約1万人。ユニセフ(国連児童基金)は「子どもたちにとって世界最悪の国」と批判している。
実情を知りたくて2014年12月、中央アフリカの首都バンギに飛び込んだ。機関銃を積んだ国連の装甲車両が鎮座する検問を抜けると、赤土の大地のあちこちに銃撃や略奪の跡が残る廃墟が横たわっていた。
中央アフリカがフランスから独立したのは1960年だった。豊富な鉱物資源の利権をめぐってすぐに政情不安に陥り、2012年にはイスラム教徒とキリスト教徒の対立が激化して、血で血を洗うような民族紛争に発展した。約250万人の子どもたちが戦闘におびえながら生活を送るなか、ユニセフや国際NGOは武装勢力と交渉して誘拐された子どもたちをなんとか救い出そうとしているが、うまくいかない。
2014年末までにユニセフが武装勢力から解放できた子どもたちは約2100人。彼らは誘拐された後、使用人として荷物を運ばされたり、前線で戦闘に参加させられたり、性的虐待を受けたりしていた。
首都バンギの中心部で数日間取材した後、ちょうどクリスマスの日に、現地助手と一緒に武装勢力から解放された子どもたちが暮らしているという国際NGOの宿舎へ向かった。
四輪駆動車で約40分。高い塀に囲まれた民家の前では、子どもたちが嬉しそうにクリスマスパーティーの準備をしていた。10歳から17歳までの155人。いずれもその年にイスラム教系の武装勢力から解放された元少年兵たちらしかった。
NGOの仲介で、2人の元少年兵が取材に応じてくれた。
「両親が殺されたとき、僕は17歳だった」と19歳のンガングは言った。故郷の村がイスラム教系武装勢力に襲われたとき、逃げ遅れた12歳の妹が捕まってしまった。両親が妹を返すよう武装勢力と交渉に向かった直後、銃声が響いた。駆けつけると、集落の路上に3体の遺体が並べられた。そのうちの2体が両親の遺体だった。
翌日、彼は銃を持ったイスラム教系の戦闘員に囲まれ、森の中へと連行された。「逃げたら殺す」と脅されて、すぐに射撃の訓練が始まった。キリスト教の村を襲撃することを告げられたある日、同じ学校に通っていた友人8人が「殺したくない」と上申すると、リーダーは8人全員を壁の前に並ばせ、カラシニコフ銃を乱射して射殺した。以来、逃げることを考えられなくなった。村を襲って食料と女を奪い、南下する生活を3カ月続けた。
「夜明け前に村を包囲し、日の出とともに威嚇射撃をする。逃げてくる人は決して撃たない」とンガングは、それがまるで何かの規則であったかのように言った。「でも居座ったり、抵抗したりする人は容赦なく撃った。殺さなければ、殺される。30人殺したところまでは覚えているが、その先はよく覚えていないんだ……」
将来の夢を尋ねると、ためらいながら「平和」と答えた。実際に書いてもらいたくて取材用のメモ帳を渡すと、「長い間、字を書いていないんだ」と言い、フランス語をうまくつづれなかった。
16歳のナンボは2013年、故郷の村がイスラム教系の武装勢力に襲われ、友人と自主的にキリスト教系の武装勢力に加わった。その年の秋、再び村が襲われて30人が死亡し、10人の女性がレイプされた。うち2人は級友で、レイプの後に殺された1人は結婚を考えていたガールフレンドだった。
数カ月後に再び村が襲われたとき、ナンボは敵のカラシニコフ銃に対し、毒を塗ったナタで応戦した。彼曰く、そこには「3分間ルール」が存在している。カラシニコフ銃は精度が悪く、標的が動いていれば、まず当たらない。弾倉内の弾はわずか数分で底をつく。
「3分間逃げ切れれば、こっちの勝ちだ」
弾は当たっても死なないが、ナタがかすれば毒で死ぬ――アフリカでの戦闘は依然、銃ではなくてナタなのだ。少なくとも彼らはそう信じ込んでいる。
やがて敵の弾が切れ始め、仲間が敵を捕らえ始めた。ナンボも敵の腕をつかんで引き倒そうとした瞬間、近くにいた仲間の一人が「これは俺のケーキ(獲物)だ」と叫んで、頭上からナタを敵の首筋に振り下ろした。
「それが僕にとっての戦闘の記憶です」
クリスマスの日、元少年兵たちは宿舎の前の広場で輪を作り、太鼓や笛のリズムに合わせて激しく踊った。NGOからプレゼントされたノートや鉛筆などを景品にしてゲームを楽しみ、マンゴーを食べて少し休むと、再び飽きることなくダンスを踊った。
「彼らにとっては、久しぶりのクリスマスなのよ」と私の横でNGOの女性が言った。
「彼らの多くは最近までイスラム教系の武装勢力に捕らえられていたから」
ねえ、踊ろうよ――そう誘われて私も彼らの輪に加わった。リズムに合わせて激しく腰を振ると、ワッと甲高い笑い声があがり、ピューといくつかの口笛が空に響いた。
踊れ、踊れ、踊れ、踊れ……。
膨大な熱とエネルギーが渦を巻き、広場を回転し続けていた。
踊れ、踊れ、踊れ、踊れ……。
私はすべてを忘れたかった。
(2014年12月)