部長。
突然のご逝去の訃報に接し、山田、ただいま飛んで帰ってまいりました。今こうして、ご遺影を前にしても、まだ私どもの前から部長が去っていかれたということが信じられません。
短期出張の命を拝してから、まだ1週間もたっておりません。任地におもむくに際しての心がまえなど、わざわざメモにして、お諭しいただいたばかりではございませんか。
ただ動転し、奈落の底へ突き落とされる思いでございます。涙すら浮かんでまいりません。それどころか、たった半月ほど前の社員旅行の夜の、あのマイクをもったお姿が今、私の眼前にありありと浮かんでまいります。
常に部下とともにというのが、部長の信条でございました。私たちの仕事上の悩みにも、社に対する希望や要望にも、是是非非(ぜぜひひ)の立場で臨んでくださっているのが手にとるようにわかり、ときにはわれわれと社との間に立って困惑されているごようすをうかがっていて、私どものほうがかえって部長のお立場を気づかいしたくなるくらいでございました。
当然、社に対しても、ご自身の信念に基づき、一意専心(いちいせんしん)、新商品の開発に尽力なさってこられたことを知らぬ者はございません。とくに昨年発売の商品は、後でうかがった話ですが、10数年来のご構想のもとに開発されたものだとうけたまわっております。
常に時代に敏感で、かつ人間の根本的嗜好を探ってこられた部長なればこそ勝ち得た大ヒット商品でございました。
今、部長を失うことは、私どもはもちろんのこと、社にとっても、いえ、なににもまして、ご家族のみなさまにとって、大きな損失であり、悲しみであり、痛恨のきわみでございます。
ご遺影は、こうした私たちの悲しみをご覧になって、そんなに悲しみ、嘆くより一つでも多くの新商品の開発にいそしめと、ほほえんでいらっしゃるようです。
私たち後進一同、今後、部長のおこころざしを体して社業にはげむ所存でございます。どうぞ安らかな眠りにおつきください。
つつしんで、ご冥福をお祈り申し上げます。