西川先生のご遺影を前にしておりますと、生前の先生のお姿、とりわけ、私が故郷を離れて東京に出た後、帰郷いたしましたおりに、先生のお宅をお訪ねしたときのことがしのばれてなりません。
西川先生。先生はいつも、私たちにおっしゃいましたね。人間はいつ永遠に別れることになるかもしれない。だからこそ、今日こうやって会うことができたことを大切にしなくてはならないのだよと話されました。でも、まだ、若かった私には、先生のお気持ちの半分も理解できませんでした。
そういえば先生は、まだ私たちが高校で先生の教えを受けていたころ、茶道でいう言葉として一期一会(いちごいちえ)の心についてお話になったことがありました。今考えると、そのころの私たちはわけもわからず、ただ漠然と先生のお顔を見ながら聞き入っていただけでしたが、こうやって、現実に先生とのお別れのときが来た今、先生のおっしゃられたこと、私たちに言い残しておきたかったことが、やっとわかってきたような気がいたします。先生は、きっとその言葉を借りて、高校の同級生であった私たちがいつまでも仲よく、しかも、会うたびごとに、その時間を互いに大切にしろとおっしゃりたかったのだと思います。人と人の出会いこそ人間同士にとって大切なものはないと諭された、先生の温厚なお顔が、一期一会という言葉とともに、今、私の胸にはよみがえっております。
先生、安らかにお眠りください。つつしんで、ご冥福をお祈り申し上げます。