内山くん、お父さん、お母さん、就職おめでとうございます。
ぼくは、今の会社に入って3年になります。まあどうやら、会社の体質にも慣れて、少しずつ自分なりの仕事の内容をしぼっていけるのではないかと思えるくらいになったところです。
そこへ、在学中の後輩部員だった内山くんが入社してきたのには驚かされました。しかも部署こそ違うとはいえ、同じフロアで毎日顔を合わせることになろうとは、いささか面はゆい感じです。
きみもすでに知っていることと思うが、ぼくたちの社は、業界でこそ大手に属するとはいえ、一般産業界から見れば、まだまだ三役どころにすら達していない前頭(まえがしら)の下位といったところだと思います。当然、経済的変動の波をかぶるし、むしろいちばん敏感に反応する業種かもしれません。それだけに臨機応変(りんきおうへん)に処理する柔軟な能力が必要です。
こんなことは、いずれ出社するようになれば、おえらい人々から、いやというほど聞かされることになるけれど、要はどこの社でも同じだろうが、外から見るほど、はででも、かっこういいものでもないということです。
頭脳明晰のきみのことだから、このあたりはすぐに理解することだろうが、今度同じ社の先輩になった者としていえることは、ぼく自身がそうだったからいうのだが、一般の人が思っているようなはなやいだ世界でも、自由な世界でもない、むしろ地味なくらい散文的な仕事が待っていると思ったほうがいいと思う。
ハレの門出のお祝いの席です。あまり厳しいことはいいたくないけれど、同じ仲間の一員になるきみにだからこそ、いうのだと思ってください。先ほどもいったように、ぼくもやっと将来の仕事のめどが立ちかかったところです。今後、いつどんなときにきみの助けを借りたくなるかもしれない。そんなときには昔を思い出して、大いに協力し合いましょう。
及ばずながら、多少の力になることもできると思います。わからないことや悩みなどがあったら、どんどん相談してください。
それではきみの、そして、ぼくたちの前途洋洋(ぜんとようよう)たる将来に、乾杯。