マクロ経済学とは、インフレーション(inflation)や失業、景気循環など経済全体の現象について研究する分野である。政策上の関心としては、一国の公的支出を決定する財政政策(fiscal policy)や、金利や貨幣供給(マネーサプライ)に直接影響を与える中央銀行の金融政策(monetary policy)の及ぼす効果がしばしば分析される。分析対象や単位が、個々の経済主体という小さな(ミクロな)レベルではなく、地域や一国といった大きな(マクロな)サイズのためマクロ経済学と呼ばれる。20 世紀を代表する経済学者のジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes 1883~1946)が1936 年に出版した『雇用、利子および貨幣の一般理論』(The General Theory of Employment, Interest, and Money)の中で、当時の主流派である古典派経済学(classical economics)とは異なるマクロ経済学固有の考え方(これをケインズ経済学〈Keynesian economics〉と呼ぶ)を提示したことによって、ミクロ経済学から離れた独立の分野として確立された。「総需要が総供給を決定する」という有効需要(effective demand)の原理を中心としたケインズ経済学のアプローチは一時期隆盛を誇ったものの、70 年代以降は価格を通じた市場の調整機能を重視する伝統的な経済学のアプローチが復権を果たし、少なくとも学界では優勢となる。その後、マクロ経済学は両者の間の論争を通じて、別の言い方をすると、両陣営の主張するマクロ経済の特徴や法則をくみ取りながら、発展を遂げてきた。近年ではマクロ経済学においても、ミクロレベルの家計や企業の意思決定にもとづいた分析が行われる場合が多く(これをマクロ経済学のミクロ的基礎付け〈micro-foundation〉 と呼ぶ)、ミクロ経済学と比べた分析手法上の違いはほとんど無くなってきている。特に、現在のマクロ経済モデルには、ミクロ経済学の分野で発展した一般均衡理論に、時間と不確実性の要素を付け加えた動学的確率的一般均衡(dynamically stochastic general equilibrium ; DSGE)理論と呼ばれる分析ツールが、ひな型として幅広く使われている。