ゲーム理論とは、自分にとって望ましい行動が他の人たちの行動によって影響を受けるような状況(これを戦略的状況〈strategic situation〉と呼ぶ)を分析する応用数学の一分野である。数学者フォン・ノイマン(John von Neumann 1903~57)と経済学者オスカー・モルゲンシュテルン(Oskar Morgenstern 1902~77)による大著『ゲームの理論と経済行動』(Theory of Games and Economic Behavior 1944年)によってその理論体系が確立された。個々人のインセンティブを明示的に分析する非協力ゲーム理論(non-cooperative game theory)と、グループ全体での拘束力のある合意形成について分析する協力ゲーム理論(cooperative game theory)の二つのアプローチに大きく分かれる。現在は前者が主流的なアプローチとなっており、単に「ゲーム理論」と言った場合には非協力ゲーム理論を指す場合が多い。
非協力ゲーム理論では、戦略的状況を、(1)プレーヤー(player)、(2)戦略(strategy)、(3)利得(payoff)の三つの要素からなるゲーム(game)として表現する。ここで、プレーヤーはその状況にかかわっている参加者、戦略は各プレーヤーに与えられた選択肢、利得は結果(起こり得る戦略の組み合わせ)に応じてプレーヤーがそれぞれ得ることができる得点、を意味する。この準備のもとで、各プレーヤーが自分の利得をできるだけ大きくしようとする時にどのような結果が実現されるのか、を予測・分析する。その際に、ジョン・ナッシュ(John F. Nash, Jr. 1928~2015)が50 年に生み出したナッシュ均衡(Nash equilibrium)という概念が中心的に用いられる。60年代以降、ゲーム理論はより複雑な状況を分析できるような形に進化を遂げ、80年代からは経済学においてその応用が爆発的に進んだ。94年には、ゲーム理論の発展、より具体的にはナッシュ均衡概念の拡張、に大きく貢献したジョン・ハーサニ(John Harsanyi 1920~2000)とラインハルト・ゼルテン(Reinhard Selten 1930~)が、ナッシュと共にゲーム理論分野で初めてとなるノーベル経済学賞を受賞した。