伝統的な経済学(しばしば新古典派経済学〈neo-classical economics〉と呼ばれる)に、認知バイアスの存在や感情の働き、計算能力の限界などに代表される心理学の知見を取り入れ、より現実的で多様な意思決定にもとづいた経済行動を分析しようとする分野。伝統的な経済理論では、利己的で合理的な経済主体(これを合理的経済人〈ホモ・エコノミクス〉と呼ぶ)が前提とされるが、行動経済学では利他的であったり、首尾一貫した意思決定をうまく行うことができない非合理的な経済主体を扱う。行動経済学で提唱される仮説の検証にしばしば経済実験が用いられることから、実験経済学(experimental economics)との結びつきが強い。2002年には、行動経済学で最も影響力のある仮説の一つであるプロスペクト理論(prospect theory)の提唱などを通じて、行動経済学の発展に大きく貢献したダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman 1934~)が、実験経済学の手法を確立したバーノン・スミス(Vernon L. Smith 1927~)と共にノーベル経済学賞を受賞した。近年では、fMRI (functional magnetic resonance imaging)などの手法を使って人間の脳の働きを直接分析することで、より科学的に意思決定プロセスを分析しようとする神経経済学(neuroeconomics)と呼ばれるアプローチも台頭してきている。行動経済学の中で、特にファイナンスの問題について分析を行うものは行動ファイナンス(behavioral finance)、戦略的な相互依存関係を分析する分野は行動ゲーム理論(behavioral game theory)と呼ばれ、独立した分野として扱われることも多い。