完全競争とは、市場に参加する個々の家計や企業が直接的に価格を左右するような影響力(これを価格支配力〈pricing power〉と呼ぶ)を持たず、与えられた市場価格をもとに、つまり価格をコントロールできない状況で(これをプライス・テイカーの仮定〈price taker〉と呼ぶ)競争を行っている状況を指す。完全競争が成り立っている市場(完全競争市場〈perfectly competitive market〉)で、各人が望む需要量と供給量をすべての参加者についてそれぞれ足し合わせたものを需要(demand)および供給(supply)と言い、前者から後者を引いたものは超過需要(excess demand)と呼ばれる。需要と供給がちょうど等しくなるような価格と数量の組を市場均衡(market equilibrium)あるいは競争均衡(competitive equilibrium)と呼ぶ。
市場均衡によって達成される財・サービスの配分はパレート効率的(Pareto efficient)になることが知られている。すべての市場の相互連関を考慮に入れた一般均衡分析(general equilibrium analysis)において「(すべての市場の需給を一致させる)市場均衡がパレート効率的になる」という命題は、厚生経済学の第一基本定理(first fundamental theorem of welfare economics)と呼ばれている。また、この定理とは逆に「どんなパレート効率的な配分も(初期保有の移転を適切に行えば)市場均衡によって実現することができる」ということも証明されており、この命題は厚生経済学の第二基本定理(second fundamental theorem of welfare economics)と呼ばれている。厚生経済学の基本定理は、市場の持つ優れた側面を浮き彫りにしており、経済学における最も重要な成果の一つと考えられている。しかし、これらはあくまで完全競争市場という仮定のもとで成り立っている命題であり、現実の市場にそのまま応用できるとは限らないという点に十分な注意が必要である。