中央銀行が貨幣供給(マネーサプライ)を増やして、つまり金融緩和を行っても、名目金利(利子率)が一定水準より下がらなくなる状況を指す。金利低下を通じた需要創出が不可能となるため、通常の金融政策(monetary policy)が有効性を失う。流動性の罠は、ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes 1883~1946)によって初めてその理論的な可能性が指摘されてから、長らく机上の空論に過ぎないと見なされてきた。しかし、失われた10 年(the lost decade)と言われる長期不況で超低金利が続いた日本や、リーマン・ショック後の欧米各国で理論が示唆する兆候が見られたことから、現実的な問題として関心が高まった。流動性の罠のもとでは名目金利が一定以下に下がらないため、ひとたび物価が下落を始める(デフレーション〈deflation〉)と、資金の需給を決定する実質金利(名目金利-インフレーション率)がうまく調整されずに高止まりする。結果として金融市場では資金の超過供給が解消されず、なかなか景気低迷から抜け出すことができなくなってしまう。