外部性があるため市場取引を通じて効率性が達成できないような状況であっても、「取引費用(transaction cost)が存在しなければ、当事者間の自発的な交渉によって効率的な資源配分が実現できる」とする主張。1991年にノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コース(Ronald H.Coase 1910~2013)によって提示された。お互いの状況を改善するような交渉を妨げる要因が何もなければ、改善の余地がない状態、つまりパレート効率的(Pareto efficient)な状態へと行きつく。そのため、利益の(負の)外部性の受け手である被害者が外部性を排除する権利を持っているか、あるいは出し手である加害者が自由に経済活動を行う権利を持っているかに関係なく、効率性が達成されるのである。ただし、現実には無視できない様々な取引費用が発生するため、コースの定理が文字通り成立する状況は限定されている。また、仮に取引費用がゼロであっても、誰に権利が与えられるかによって、当事者間での富の分配は大きく左右される点に注意が必要である。取引費用の存在が企業の経済活動や組織構造にどのような影響を与えるかを分析する上で、ベンチマークとなる定理。