個人が選択肢に対して首尾一貫した好みを持っているにもかかわらず、多数決によって集団全体の好みを決定しようとすると、選択肢間ではっきりと優劣が付かなくなることを、投票のパラドックスと言う。よりフォーマルには、推移性(transitivity)を満たす個人の選好から、多数決によって導かれた社会的な選好への推移性を満たさなくなること、を指す。例として、外食に出かけようとしている一郎、二郎、三郎の3兄弟が、どのレストランに一緒に行くかを決める状況を考えよう。お店の候補は和食、中華、洋食の3つで、各人の好みは次のようだとする。
一郎:和>中>洋
二郎:中>洋>和
三郎:洋>和>中
いま和食と中華で多数決をとると、一郎と三郎が和食、二郎が中華にそれぞれ投票することから、2対1で和食が勝利する。同様にして中華と洋食を比較すると、2対1で中華が勝つ。つまり、多数決によって確定した集団の好みは
和>中 および 中>洋
となっている。ここで、集団の好みが首尾一貫しているためには(つまり推移性を満たすためには)、和食が洋食より好まれなければならない。しかし、この2つで多数決を行うと、今度はなんと洋食が和食に2対1で勝ってしまうことが分かる。投票のパラドックスは18世紀の社会学者コンドルセ(M. J. A. N. Condorcet 1743~94)によって発見された。そのため、コンドルセのパラドックスとも呼ばれている。