賭けや保険など、結果が不確実な状況における人々の選択行動を説明するための代表的な仮説。人々は、起こり得るそれぞれの結果から生じる効用(満足度のようなもの)の期待値、つまり期待効用(expected utility)を計算し、それを最も高くする選択肢を事前に選ぶ、という考え方である。たとえば、ゆがみのないコインを一度だけ投げるような状況で、次の2種類の選択肢をイメージしてみよう。
選択肢A : 表が出ても裏が出ても、5万円を確実にもらえる
選択肢B : 表が出たら10万円をもらえるが、裏が出たら1円ももらえない
ここで、0円、5万円、10万円をもらった時に、事後的に生じる効用をu(0)、u(5)、u(10) と表そう。選択肢Aでは確実に、つまり確率1で5万円をもらえるので、期待効用は1×u(5)=u(5)と計算される。Bでは確率1/2ずつで10万円か0円の結果が実現するので、期待効用は1/2×u(10)+1/2×u(0)=1/2(u(10)+u(0))となる。こうして求めた期待効用を比較して、値が大きい選択肢を選ぶというのが期待効用仮説である。選択肢AとBでは、受け取る金額の期待値はどちらも5万円となるため、もしも期待金額の大小に従って選択肢を決めるとすると、どちらを選んでも無差別になるはずである。しかし、uの大きさは人によって異なり得るので、期待効用仮説を用いると、以下のように選択行動の違いを説明することができる。
u(5)>1/2(u(10)+u(0))→Aを選ぶ(危険回避的)
u(5)<1/2(u(10)+u(0))→Bを選ぶ(危険愛好的)
u(5)=1/2(u(10)+u(0))→どちらも無差別(危険中立的)
Aは結果が確実に保証された安全な選択肢、Bは偶然に左右される危険な選択肢である点に注目して欲しい。上のような、期待金額が同じ選択肢から選ばせるような選択問題で、一貫して安全な選択肢を選ぶような人を危険回避的(risk averse)、危険な選択肢を選ぶ人を危険愛好的(risk loving)、またどちらを選んでも無差別な人を危険中立的(risk neutral)、と表現する。