2002年以降、日本、アメリカ、ヨーロッパが中国に対して圧力をかけている中国の通貨(人民元)切り上げ問題。背景には中国の輸出攻勢に対して政府に保護を求める各国産業の要請がある。それまで中国通貨当局は、日々の人民元対ドルレートを前日終値の上下0.3%以内に抑えるという方針を示すだけで、表向きは固定レートを採用しているわけではなかったが、実質的には1997年以降1ドル8.28元前後でドルにペッグ(固定)してきた。この間、「世界の工場」と呼ばれるようになった中国は輸出を急速に伸ばしたが、その原因の一つとして、人民元のドルペッグレートが実勢レートよりも低すぎるという批判があった。実際、介入レートは、85年を基準にしてその後の日中インフレ格差を反映した人民元の対日本円PPP(購買力平価)レートより14%安いという財務省(日本)の試算もある(2003年)。日米欧、特にアメリカが03年以降、政治的圧力をかけ続けた結果、中国は05年7月21日に、(1)通貨バスケットによる管理フロート制の導入、(2)日々の変動幅を0.3%とする、(3)当初の切り上げ幅をほぼ2%とする、(4)適当な時期に変動幅を調整する、との為替政策の変更を発表した。さらに、07年5月21日には変動幅を0.5%まで拡大。しかし、これは欧米の圧力をかわし、なおかつ変動幅を極力抑えるという極めて政治色の強い政策であり、経済的な影響をもつものではない。その意味で、欧米からはなお一段の切り上げの要求が高まることが予想される。ただし、かつて日本が円切り上げを繰り返しながら貿易黒字が拡大したように、為替レートと貿易収支の関係は必ずしも明らかではない。