2002年2月を谷とし07年10月を山とする「いざなみ景気」(第14循環の拡張期)を支えたのは、歴史的なまでの円安であった。ゼロ金利政策、量的緩和政策の下での5年間に、低金利の円で借り高金利通貨で運用する円キャリー・トレードの興隆もあり、円は20%ほど安くなった。しかし、この円安の流れも景気の転換とほぼ時を同じくして、反転することとなった。08年9月の「リーマン・ショック」の際には、米ドルの増価を上回る急激な変化率で円高になった。また、09年11月の「ドバイ・ショック」では、ユーロが急激に減価し、10年5月の「ギリシャ・ショック」では、米ドルが減価した。その中で、円は独歩高の傾向を見せている。背景には、世界の投資家のリスク回避的な姿勢があり、円が相対的に安全な資産であるとの認識がある。国際決済銀行(BIS)が毎月計算する「実質実効為替レート」は、通貨の総合的な実力を示す。(1)物価の変動を考慮した実質レートであることと、(2)貿易額などで測る重要度をウエートとしてすべての通貨の二国間レートを平均した実効レートであること、以上の二つの要素を体現しているからである。基準年05年を100として指数化した図でみると、近年の円の独歩高の傾向がよく表れている。