イギリスの経済学者デヴィッド・リカード(1772~1823)が提唱した、最もよく知られた「国際分業」の原理。アメリカの経済学者ポール・サミュエルソン(1915~)は弁護士事務所における弁護士と秘書の分業の問題にたとえてこの原理を説明している。この両者の間で、いま、弁護士の方が秘書よりも文書をタイプする能力が高かったとしよう。このようなとき、タイプについて弁護士が「絶対優位」を持つといえるが、両者の間における分業のパターンを決めるべきなのは絶対優位の基準ではない。なぜなら、もう一つの分野、つまり法律業務では、秘書に比べた弁護士の能力の優越がよりはっきりしていて、そのパフォーマンス格差を基準にして考える限りは、文書のタイプの分野ではむしろ秘書が「比較優位」を持つからである。比較優位に従って、弁護士が「法律業務」に、秘書が「文書のタイプ」に特化するのが正しい分業パターンである。同様に国際分業パターンについても、個々の産業の労働生産性を国際比較するという絶対優位の基準ではなく、他産業と比較した労働生産性を基に各国が生産特化する産業が決められるべきだというのが、比較優位の原理である。この原理に従えば、日本は繊維産業において中国に比べて労働生産性が勝っていたとしても、自動車産業におけるより大きな労働生産性格差を考えるなら、繊維を比較優位のある中国に譲るべきことになる。