1990年代後半以降、それまでの日本型経営スタイルに対する反省に基づいて、日本企業は個々の事業ユニットの競争力を強化するために、社内カンパニー制の導入や分社化の推進などの分権化政策を推し進めてきた。その結果、各事業の収益性は向上したものの、事業の部分最適化あるいは個別最適化が進行し、各事業部門が自らの利益を追求しすぎるあまりに、社内での連携が希薄化するという事態を招いてしまった。また、成果型人事制度を徹底しすぎた結果として個人主義が蔓延(まんえん)し、社員の活力が低下するといった現象が起こっている。全体最適型経営とは、そのような部分最適化を是正するための経営モデルである。全体最適型経営においては、社員に組織の全体像を理解させることにより、事業間のシナジー効果を発揮することが求められる。また、全体最適型経営の実践において重要なポイントとなっているのは部門間での連携および学習であり、これを促すことで会社全体の競争力を向上させ、企業価値を高めていくことが可能になる。そのためには、各部門で理念・価値観・コーポレートブランドなどの無形資産や情報、危機感などをばらつきなく共有するとともに、社員の関心の範囲を広げるための仕組みが必要となる。それと同時に、様々な問題を解決する際に重要となる、会社固有の思考プロセスのパターンを徹底させることも求められる。