行動ファイナンスとは投資家の意思決定プロセスに焦点を当てたファイナンス理論のことであり、経済学と心理学の2つの学問を融合させた新しい研究領域である。伝統的ファイナンス理論では投資家は必要な情報を十分にもっており、それを利用して自己の利益追求を果たすために行動するという、投資家の合理性(rationality)を暗黙のうちに仮定している。これに対して、行動ファイナンスは投資家の意思決定が必ずしも合理的ではない場合が存在するという、投資家の限定合理性(bounded rationality)を仮定し、実際の投資家の意思決定プロセスを明らかにしようとする。1960年から70年代までの実証研究は株式市場が適切に情報を価格に反映しているという、市場の効率性(market efficiency)を支持するものがほとんどであった。しかし80年代に入って、市場の非効率性を指摘する証拠が提示されるようになると、伝統的ファイナンス理論の前提である投資家の合理性が疑問視されるようになった。行動ファイナンスでは、こうした投資家の非合理的な行動を効率的市場におけるノイズとして捉えるのではなく、彼らは系統的に誤った意思決定を行っていると考える。つまり、ある状況下では合理的な意思決定を行うが、他の状況下では非合理的な意思決定を行うことを想定するのである。