二つの通貨の間の交換比率である為替レートは、通貨の購買力が等しくなるように決まるはずであるとする考え方。購買力平価には、絶対的購買力平価説と相対的購買力平価説の二つの考え方がある。
輸出入が自由で、関税も輸送コストもない世界では、同じ貿易財(輸出入が可能な財)のバスケットの価値は、日本でもアメリカでも同じになるはずである。この同じバスケットの値段が2カ国で同じになるような為替レートが絶対的購買力平価レートである。たとえば同じバスケットの値段が、アメリカでは100ドル、日本では1万4000円であれば、円とドルの間の購買力平価レートは1ドル140円になる。もし現実の為替レートがこの購買力平価レートから乖離し、仮に1ドル110円になっていれば、この財のバスケットを安いアメリカで100ドル(=1万1000円)で買って、高い日本で1万4000円で売れば、3000円の利益を上げることができる。これが大規模に行われれば、アメリカの物価が上昇し、日本の物価が低下するとともに、ドル買い・円売りにより、ドルの対円レートは上昇し、購買力平価を成立させるように働く。この購買力平価の考え方は、同じ財のバスケットの価格の絶対的な水準が同じになるはずだとするものであり、絶対的購買力平価説とよばれている。実際、原油、石炭などの一次産品価格は、関税や輸送費を調整すれば、購買力平価はほぼ成立している。しかし、自動車などの耐久消費財や農産物などは、関税、輸送コストのほか、さまざまな貿易の上の障害があり、同じ財の価格でも各国でかなり異なる。このため広い範囲の財のバスケットについては、絶対的購買力平価は成立していない。そこで、この絶対的購買力平価説を弱めたのが、相対的購買力平価説である。相対的購買力平価説では、まず為替レートが2カ国の国際競争力にほぼ見合っていたと考えられる基準時点を選ぶ。次に、この基準時点から、2カ国の一般物価水準がどれくらい変化しているかを測定する。そして基準時点の名目為替レートが2カ国のインフレ格差分だけ変化した場合の名目為替レートを計算し、これを現在の購買力平価レートとみなす。たとえば、基準時点で円の対ドル為替レートが1ドル200円だったとしよう。そして基準時点に比較して、現在のアメリカの一般物価が2倍になり、日本の物価は全く変化しなかったとしよう。この場合、相対的購買力平価説では、現在の購買力平価レートは1ドル100円になる。このような分析は、基準時点の実質為替レートが均衡実質レートであると考えられる場合に、現時点の均衡為替相場を推定する場合などに用いられる。