今日世界には200近い国があるが、独立して変動相場制を採っている国はアメリカ、ユーロ圏、日本など比較的少数の国にとどまっている。多くの途上国は、大半の国が米ドルなどの大国の通貨ないし、主要国通貨のバスケットに対して為替相場を安定させる政策を採っている。ある国や地域がそれぞれ独立して変動相場制を採用するか、あるいは、いくつかの国が為替レートを固定して「通貨圏」を形成し、対外的には変動相場制を採用するかは、経済政策上の重要な問題で、これを分析する理論が最適通貨圏の理論である。
マンデルは、最適通貨圏の大きさを、物価・雇用の安定の観点から議論した。二つの地域があり、一方の地域で失業が、他方の地域で人手不足があるとき、二つの地域が独自の通貨を持ち、為替レートを変更する自由度があると、失業のある地域が人手不足の地域に対して為替レートの切り下げを行うことで、産業の競争力を強めることで地域的な失業を避けることができる。しかし地域的な失業や人手不足があっても、経済が統合され労働力が地域間を自由に移動できれば、為替レートを変化させる必要はない。通貨の切り下げが失業に効果を持つのは、その地域の輸入依存度が低い場合に限られ、小国が切り下げを行うと、消費物資のかなりの部分は輸入品のため消費者物価が上昇し、さらにそれに影響されて賃金が上昇してしまうため、自国の産業の競争力は改善しない。これに対し日本やアメリカのような輸入依存度が低い国が通貨を切り下げた場合には、輸入物価の上昇は小さく賃金もさほど上昇しないため、自国の産業の競争力は改善する。
マッキノンは、完全雇用、物価の安定といった経済の対内的な均衡と、国際収支の均衡の両方を達成する観点から、最適通貨圏の議論をした。輸入依存度の高い小国の場合は、国際収支の赤字を是正する上で、先にみたように通貨の切り下げはあまり有効ではなく、むしろ金融・財政政策の引き締めにより、内需を抑制するのが有効である。これに対し、輸入依存度の低い大国の場合は、内需を抑制してもその効果は主に国内生産を低下させるように働き、輸入を減少させる効果は小さい。むしろ通貨の切り下げを内需抑制と組み合わせるのが国際収支の赤字是正に有効である。以上の議論から、労働市場が統合され、かつ輸入依存度の高い国や地域は、一つの通貨圏を作るのが望ましいが、労働市場が分断されかつ比較的輸入依存度の小さい地域は、独立した通貨圏を持つのが望ましいといえる。